『ただの甘えん坊さんになっても良いよ?…君がアル中になる前に、だよ?弱くなっても…』

@take-radio

第1話『ただの甘えん坊さんになっても良いよ?…君がアル中になる前に、だよ?弱くなっても…』

『ただの甘えん坊さんになっても良いよ?…君がアル中になる前に、だよ?弱くなっても…』




何も知らない方が良いんじゃなかった?


大丈夫だよ?


酔ってみたいだけ…


そう言って、彼女は甘酒の入った紙コップに口を付けた。


俺の知らない部分に無礼不躾で土足で踏み入るのは、彼女。


俺は焼酎の入ったミニボトルに口を付けた。


誰も分かっちゃくれない。


呑めば呑むほど、意識が鮮明になってしまう。


周りの人間達が雪のように冷たく俺を取り囲む。


誰にも分かって欲しくない。


受験戦争に完全に負けた訳じゃなく、企業での出世戦争に完全に負けた訳じゃなく…


戦争はこれからだ…


ガラスの砕けた音で、意識が現実を認識し始める。


彼女が、…千鳥足で…


甘酒の香りが鼻腔と、…唇を支配する。


しんどいでもいいけど…ひと花咲かせてもいいけど…一緒に…いて…おいていかないで…


嫌いになってもいいけど…私から君を避けたりは…しないよ


絶対?


俺は、疑問を口にしてしまった。


返答の替わりに、蕩ける笑顔で彼女は甘えてきた。


俺は彼女の髪に顔を埋め、首筋をきつく吸った。


聞き慣れた嬌声が、深夜の雪景色に吸い込まれていく。


大嫌いだと言っていた奴らって、一体誰だったんだろう?


まあ、明日にはまた別の戦争が始まるのだが。


彼女は、何も知らない方が良い。

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