第38話 僕にはやるべきことがあるんだな
学校の昼休み、教室の窓際でぼんやりと外を眺めていた。青空が広がり、街が穏やかな時間を過ごしているのが見える。以前の僕なら、こんな風に一人で過ごすことが当たり前だった。けれど、最近は違う。
「山田くん、一緒にご飯食べない?」
突然の声に振り返ると、数人のクラスメイトが弁当を手にして立っていた。佐藤さんや田中たちだ。
「お、いいぞ。どこで食べる?」
「中庭に行こうよ。今日は天気もいいし!」
自然と彼らの輪に加わる僕。以前なら気後れしていたかもしれないが、今は違う。この時間を楽しもうと思えるようになった。
*
中庭の芝生に座りながら、みんなで談笑する。話題はくだらないものばかりだが、それがかえって心地よかった。
「山田、お前、班活動のリーダーやってから変わったよな。」
田中が笑いながら言うと、周りのクラスメイトたちも頷く。
「そうそう、なんか頼れる感じになったよね。」
「いや、そんな大したことしてないだろ。みんなが協力してくれるから、俺も頑張れるだけだよ。」
そう言うと、佐藤さんが笑顔で言った。
「それがすごいんだよ。ちゃんと人を動かせるってことだから。」
思わぬ褒め言葉に照れくさくなりながらも、心の中に温かいものが広がる。自分が少しずつ変わっていることを、周りが認めてくれているのが嬉しかった。
*
放課後、帰り道を歩きながら、ふと自分の拳を見つめる。この拳で、僕はこれまでいくつもの怪物を倒し、誰かを守ってきた。そして、その結果、少しずつ自分に自信が持てるようになってきた。
「この力を、もっと人のために使えるんじゃないか?」
自分に問いかける。最初は自分が怪物に襲われたことで、ただ反撃するために使った力だった。でも今は違う。誰かを守るために、この力を使うことができる。
*
帰宅すると、妹がリビングでテレビを見ていた。
「おかえり、兄ちゃん。今日は何してたの?」
「別に普通だよ。みんなと話したりしてた。」
「ふーん、最近友達多いじゃん。前はそんなことなかったのにね。」
妹の言葉に苦笑しながら、台所でお茶を入れる。変わった自分を妹に認められるのは、どこかくすぐったかった。
妹の言葉に苦笑しながら、台所でお茶を入れる。何気ない会話だけど、彼女が僕の変化を認めてくれるのが少し嬉しかった。前の僕なら、こんな風に誰かに変わったなんて言われること自体が想像できなかったからだ。
リビングに戻り、湯気の立つカップを手にソファに腰を下ろす。妹はテレビに目を向けているが、その視線の端で僕の様子をうかがっているのが分かる。
「兄ちゃん、ホントに何かあったんじゃないの?」
「別に何もないよ。ただ、ちょっと頑張ってみようかなって思っただけ。」
「ふーん……まあ、いいけど。」
妹は素っ気なくそう言いながらも、ほんの少しだけ満足そうな表情を浮かべている。その表情を見て、僕の中にまた小さな達成感が芽生えた。自分が少しでも誰かの期待に応えられているのなら、それでいい。
お茶を飲み終えた後、僕は自室に戻る。デスクの上に広げっぱなしのノートを見つめながら椅子に座り、ふと今までの出来事を振り返った。
ペンダントに選ばれ、魔法少女としての力を得たこと。そしてその力を使って、怪物を倒し、誰かを守ったこと。最初はただの偶然だった。自分には関係のない話だと思っていた。でも、気がつけば僕はその中に飛び込んでいた。
「こんな風に変わるなんて、思ってもみなかったよな……。」
呟きながら、自分の拳を見つめる。この拳で守ったものが確かにあった。目の前に立ちはだかる怪物を倒した時の達成感。それが、こんなにも自分を前向きにさせるとは思わなかった。
そして、この力を通じて周りの人たちとの関係も変わった。家族、友人、そして妹――。以前よりも心の距離が近くなった気がする。たった一つの力が、こんなにも世界を変えるなんて。
「この力がある限り、僕にはやるべきことがあるんだな。」
そう思うと、不思議と気持ちが軽くなる。今まではただ受け身で、毎日をやり過ごすだけだった。けれど、今は違う。この力をどう使うかは僕次第だ。そして、それが誰かの役に立つなら、僕はこの力を使い続けよう。
窓の外を見ると、夜の静けさが広がっていた。星がちらほらと見える空を見上げながら、深呼吸をする。
「明日も楽しみだな……。」
ベッドに横になり、ペンダントを手に取る。柔らかな光を放つそれを胸元に抱えながら、静かに目を閉じた。少しずつだけど、確実に自分の中で何かが変わっている。それを感じながら、僕はゆっくりと眠りに落ちていった。
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