第31話 絶対、怪しい

休日の朝、僕はリビングでダラダラしていた。テレビでは特に興味のないバラエティ番組が流れているけど、別に気にしていない。ただ、ゆったりした時間を楽しんでいるだけだ。妹も隣のソファでスマホをいじっていて、特に何か話すわけでもない。


「今日は何してんの?」


唐突に妹が口を開いた。スマホから目を上げず、僕に問いかけてくる。


「別に、特に予定はないよ。家でゆっくりしようかな。」


「へぇ、珍しいじゃん。最近ずっと出かけてたのに。」


何気ない会話のようでいて、どこか探るような口ぶりだ。僕は平静を装いながら肩をすくめた。


「たまには家でのんびりするのも悪くないだろ。」


「まぁね。」


妹は軽く返事をすると再びスマホに目を戻したが、その仕草には微かな違和感があった。何か引っかかるような雰囲気だ。


そんな穏やかな朝を破るように、ポケットの中でペンダントが震え出した。最初は気のせいかと思ったけど、明らかに振動が強くなっている。胸元をじんわりとした熱が伝わり、嫌な予感が湧き上がる。


「……ちょっと出てくる。」


「あれ?さっき家にいるって言ってたじゃん。急にどうしたの?」


「ちょっと散歩でもしようかなって。気分転換だよ。」


そう言って立ち上がると、妹がちらっと僕を見た。明らかに不審そうな目つきだ。焦りを見せないよう、僕は靴を履きながら適当に続ける。


「ふーん、そう。」


妹はそれ以上何も言わなかったけど、視線がどこか鋭い。気にしないふりをして家を出た。



静かな住宅街を抜け、ペンダントの反応を頼りに歩き続ける。振動は徐々に強くなり、方向を示すように僕を導いている。ふと後ろを振り返ると、家族や近所の誰も追ってきている様子はない。


「さすがに、誰も気づいてないよな……。」


そんな独り言を呟きながら歩みを進めた。


だが僕が気づかないところで、妹は玄関の扉が閉まる音を合図に、静かに靴を履いていた。僕が角を曲がるのを待ってから、少し距離を取って後を追い始める。


「絶対、怪しい。」


妹の視線は僕の背中を捉えたまま、一歩一歩慎重に進んでいく。その目には、兄の動向を何としても見破ろうという決意が見える。


僕が静かな路地に入り、さらに人通りの少ない場所へ向かっていくと、妹の足取りも次第に緊張を帯びてきた。ペンダントの反応が一層強まり、僕は自然と足を速める。


気づかない僕と、慎重に後を追う妹。静かな路地には二人の足音だけが響いていた。



人気のない路地に足を踏み入れた僕は、ペンダントの強まる振動に全神経を集中させていた。この反応は間違いない――怪物が生まれようとしている。気配を追うと、目の前にはフラフラと歩く男性の後ろ姿が見える。その背中から、黒いモヤが少しずつ吹き出し始めていた。


「やっぱり、あの人が原因か…。」


これまでの戦いで学んだことが頭をよぎる。怪物は人々の負の感情やストレスから生まれる。そして、その感情に取り込まれた人は、モヤが出尽くすと倒れる――まるで生命力を吸い取られたように。


「止めなきゃ…!」


僕は足音を立てないように慎重に尾行する。男性は時折立ち止まり、何かをブツブツと呟きながら歩いている。その声は聞き取れないけれど、様子から察するに、何かに苛まれているのは明らかだ。


やがて、男性は路地の奥にある開けた場所にたどり着くと、その場でしゃがみ込んだ。そして次の瞬間、黒いモヤが一気に吹き出し、渦を巻きながら怪物の形を取り始めた。


「来る…!」


僕はペンダントを握りしめ、変身の準備をしようとした。しかし、次の瞬間、怪物が突然その場で方向を変え、鋭い爪を振りかざしながら突進してきた。


「くっ…!」


変身のタイミングを完全に逃した僕は、反射的に横に飛び退き、怪物の攻撃をなんとか回避した。地面に転がるように着地しながら、怪物の動きを注視する。


「何を狙ってる…?」


怪物の視線は僕ではなく、背後の何かに向けられている。その時、耳をつんざくような叫び声が背中から聞こえた。


「きゃああああ!」


驚きと共に振り返ると、そこには妹の姿があった。彼女は驚愕の表情で怪物を見つめ、立ちすくんでいる。


「なんで…!」


状況を理解する暇もなく、怪物が妹に向かって襲いかかろうとしている。その姿に、僕の中で何かが弾けた。


「やめろおおおお!」


ペンダントを握りしめ、全身が光に包まれる感覚に身を任せた。変身するためのエネルギーが体中を駆け巡り、僕は拳を握りしめたまま、怪物と妹の間に立ちはだかった。


「——変身!!」

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