第29話 大丈夫。ちょっと考え事しててさ
学校の窓から見える青空をぼんやりと眺めながら、僕は昨日の出来事について考え込んでいた。授業の内容なんて、右から左に流れていくばかりだ。ペンダントの感触が妙に重たく感じるのは、きっと僕の気分が沈んでいるせいだろう。
「負の感情から怪物が生まれる…ってことか。」
ポツリと漏らした言葉は、自分の中でまだ確信に至っていない推測だった。昨日見たあの女性――黒い霧を発し、まるで何かを吸い取られたかのように倒れ込んでいた彼女の姿が、頭の中で何度も繰り返される。
休み時間になると、机に突っ伏してさらに考えを巡らせた。僕は普段、学校ではそれなりに普通に過ごしている方だけど、今日ばかりは無理だった。友人たちの笑い声や教室のざわめきが、どこか遠くの音のように感じられる。
「おい、山田! どうした、今日は元気ねえな!」
田中が背中を叩いてきた。いつもなら軽口で返せるところだが、今日は気分が乗らない。
「あー、寝不足でさ。」
そう適当にごまかすと、田中は「なんだよ、それ」と軽く笑いながら去っていった。田中はそれ以上深入りしないタイプで助かった。
でも、昨日のことを誰かに話したいかと聞かれたら、それもまた違う。だって、自分でも何が起きているのか、どうしてこうなっているのかがわからないんだから。
昼休み、僕は食堂には向かわず、校舎裏の小さな庭に行った。人がほとんど来ないその場所は、僕の考え事をするにはうってつけだった。ペンダントをポケットから取り出して、じっと見つめる。
「お前も、何なんだろうな…。」
握りしめても、何も答えが返ってくるわけじゃない。だけど、僕の中には確信に近い感覚があった。あの怪物たちは、人間の負の感情――怒り、悲しみ、恐怖、絶望、そういったものに引き寄せられて生まれている。そして、それを増幅して街を脅かしている。
もしこのペンダントがなかったら、僕はとっくに怪物にやられていただろう。そして、あの女性のように犠牲者がどんどん増えていく。それだけは、何としても止めなければならない。
午後の授業が始まったが、僕の意識はほとんど授業には向いていなかった。ノートにペンを走らせながら、頭の中では怪物のことばかり考えている。どうすれば奴らの発生を止められるのか。そもそも、どうして奴らはこの街に現れるのか。
「山田くん、大丈夫?」
隣の席の女子が心配そうに声をかけてきた。
「あ、うん、大丈夫。ちょっと考え事しててさ。」
笑顔で返事をしたが、彼女の表情からはまだ心配そうな様子が消えなかった。たぶん、僕の笑顔は不自然だったんだろう。
放課後、僕はいつもより遅い時間に校門を出た。何となく、まっすぐ帰る気になれなかった。ペンダントは相変わらず静かだが、いつまた反応を示すかわからない。街を歩きながら、昨日の出来事を思い出していた。
黒い霧をまとった怪物、倒れた女性、そして戦闘の中で感じたあの違和感。僕の拳が怪物に当たった瞬間、何かを弾くような感触と同時に、怪物の姿が一瞬揺らいだ。まるで実体があるようでないような、不思議な存在だった。
「結局、あいつらは何なんだ…。」
一人つぶやきながら、遠回りして家に向かう。街の景色は何も変わらない。ただ、僕の目には、いつもと違うものが見えている気がした。
ペンダントがまた震え出すのは、きっと時間の問題だろう。僕には、もっと多くのことを知る必要がある。そして、もっと強くならなきゃいけない。心の中で、そう強く決意した。
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