第26話 また一緒に戦えると嬉しいな

怪物が消え去った後、静寂が辺りを包み込んでいた。僕は拳を下ろし、荒い息をつきながら肩を回す。全身に力がこもっている感覚が、少しずつ引いていく。ペンダントの震えもすっかり静まり、戦いが終わったことを実感させてくれた。


「ふぅ…。終わったな。」


「お疲れ様。良い一撃だったよ。」


隣で杖を下ろすソフィアが、少し満足げな表情を浮かべて僕に声をかけた。彼女の落ち着いた声と笑顔に、緊張していた心が少し緩むのを感じる。


「君のおかげだよ。もし魔法がなかったら、ここまでうまくいかなかったかもしれない。」


僕がそう言うと、彼女はふっと笑った。


「そうでしょ?私、サポートにはちょっと自信があるんだ。」


その自信に満ちた言葉と表情は、嫌味のない爽やかさがあった。僕は少しだけ苦笑しながら、彼女の頼もしさを改めて実感する。


戦いが終わった安堵感の中で、僕はふと彼女を見つめた。これまで正体を隠すことに集中して、彼女を信頼することを避けてきたけど、一緒に戦うたびに、彼女の実力と優しさが僕の中に染み込んでくる。


「君って、やっぱり不思議な子だね。」


ソフィアが突然言った。その言葉に、僕は少し緊張して返事を詰まらせる。


「…何が?」


「戦い方もそうだし、力の使い方も。でも、なにより…どこか壁を作ってるように見えるのよね。」


彼女の言葉は核心を突いていた。僕が男であることを隠し続けるために、どこか距離を取ってしまう態度。それを彼女は感じ取っていたのかもしれない。


「ねえ、そろそろどう?本当にチームに入らない?」


彼女はまっすぐ僕を見て言った。その目には、真剣な思いが込められているのがわかった。彼女と戦うのが心強いのは事実だ。だけど…。


「ごめん。僕は…まだ一人でやる方が合ってると思うんだ。」


言葉を選びながらそう答える。もちろん本音じゃない。男である自分の正体を知られたらどうなるか、考えたくもないからだ。


「そう…。まあ無理に誘うつもりはないけど、やっぱり君が一緒だと安心できるのよね。」


ソフィアは少しだけ考え込むような顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。


「これ、私の連絡先。何かあったらいつでも連絡してきてね。」


「え?」


突然のことに驚きつつも、彼女の真剣な目を見て僕は頷いた。メモを受け取ると、そこには彼女のIDが丁寧に書かれている。


「どうして?」


「君は一人でやりたいって言ったけど、もし困った時や、助けが必要な時は頼ってほしいから。」


彼女の声は真っ直ぐで、迷いがない。それを聞いて、僕は胸の中に少し温かいものが広がるのを感じた。


「ありがとう。…その時は頼るよ。」


彼女は小さく頷き、杖を肩にかけ直した。


「じゃあ、今日はここでお別れね。次に会う時も、また一緒に戦えると嬉しいな。」


そう言いながら、彼女は軽く手を振り、街の向こうに歩いていった。僕はその背中を見送りながら、ポケットの中のメモを軽く握りしめる。


「…チームか。」


独り言のように呟きながら、僕は空を見上げた。彼女と一緒に戦うのは心強い。だけど、僕が抱える秘密が、どうしてもその一歩を阻んでいる。



家に帰る道すがら、僕は今日の戦いを振り返った。怪物を倒せたのは、間違いなくソフィアのおかげだ。彼女のサポートなしでは、ここまでうまくはいかなかっただろう。戦いの中で僕自身も少しずつ強くなっているのを感じるが、彼女の力があったからこそ、僕の力が活かされた。


「こんな風に戦えるのは、悪くないよな。」


呟きながらポケットの中のペンダントを握りしめた。次にペンダントが反応した時も、また彼女が現れるのだろうか。その時、僕はどう答えればいいのか。


家に着く頃には、街は完全に夜の静けさに包まれていた。空を見上げると、月明かりが優しく照らしている。僕はドアを開け、家族が待つ日常に戻っていく。

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