第22話 こいつ、少しタフそうだな
学校生活も、魔法少女としての活動も、不思議なくらい順調だった。
教室では、男子たちから「最近変わったな」と声をかけられることが増えた。俺自身、特に意識して変わったつもりはない。だが、ちょっとしたきっかけで手を貸したり、クラスの空気を見て自然と動くようになったせいか、周囲の見る目が明らかに変わってきている。
「陸、頼む!体育祭の作戦なんだけど、ここの穴をどう埋めるかアイデア出してくれよ。」
昼休み、そんな相談をされた時も、俺は特に構えずに答えた。
「お前、こういうの得意だろ?一旦役割分担してさ、後から調整すりゃいけるだろ。」
「さすが陸!助かるわ!」
その場は笑いながら適当に話を合わせただけだったけど、こうして頼られるのは悪くない。女子たちからも、「ちょっと頼りになるよね」とか「意外と気が利くじゃん」とか、軽い冗談交じりの言葉が飛んでくる。
とはいえ、俺は女子と気軽に話せるタイプじゃない。そんな俺にとって、その程度のやり取りでも「成長したんじゃないか」なんて思えるようになった。
魔法少女としての活動も上手く回っている。ペンダントの反応に従って怪物と戦い続ける日々だが、最初は恐怖と混乱だけだった俺も、今では拳を振り下ろすタイミングや戦い方が少しずつ板についてきた。毎回怪物を倒した後には、「俺でもやれるんだ」という達成感と安堵が混ざった感覚が胸に残る。
*
そんな中、学校帰りの道を歩いていると、ポケットの中のペンダントが再び震え始めた。夕方の涼しい風が街を吹き抜けているが、ペンダントの熱がそれをかき消すように強くなる。
「…またか。」
周囲を見回しても、目立った異変はない。ただ、この震えが何を意味するのかは、もうわかっている。今日は少し遠回りをして帰ろうと思っていたが、そんな余裕もなく、ペンダントが示す方向に足を向けた。
細い路地を抜けて少し歩くと、ペンダントの震えがさらに強くなる。気配が濃くなり、空気が重くなったのを肌で感じた。角を曲がると、さっきまで人通りの多かった道が、嘘みたいに静まり返っている。
「ここだな…」
声に出すと同時に、目の前で黒い霧が渦を巻き始める。その中心から、ゆっくりと怪物が姿を現した。今回の奴は、以前倒したものより一回り大きい。全身を分厚い鎧のような殻で覆い、鋭い爪が不気味に光っている。目の部分に当たる赤い光が、まっすぐ俺を睨んでいた。
「相変わらず気味悪い連中だな…」
そう言いながらも、ペンダントを掴む手に力が入る。今さら恐れる必要はない。怪物が現れたなら、俺がやることは決まっている。
ペンダントを強く握りしめると、眩い光が全身を包み込む。熱が一気に体を駆け巡り、変身の感覚が俺を満たしていく。視界が白一色に染まった後、再び地に足をつけると、いつもの戦闘服に身を包んだ姿になっていた。
怪物は低い唸り声を上げながら、巨大な腕をゆっくりと持ち上げる。その動きは鈍重だが、一撃の威力は計り知れないだろう。俺は拳を握りしめ、距離を取りながら様子を伺う。
「こいつ、少しタフそうだな…」
ペンダントが僅かに震え、光を放つ。まるで「行け」と背中を押してくれるような感覚だ。俺は深く息を吸い、一気に間合いを詰めた。
「まずは一発…様子を見せてもらうぜ!」
拳を構えたまま、一気に怪物の懐へと飛び込む。巨体の隙間を狙い、俺は最初の一撃を放つ準備を整えた――。
拳を握りしめたまま、俺は怪物の動きを見極めて一気に踏み込んだ。ペンダントが淡く震え、全身に力が行き渡る感覚がする。怪物の巨大な腕が地面を抉りながら振り下ろされるが、その隙を見逃すほど甘くはない。
「遅い…!」
低く呟きながら、俺は地面を蹴り、怪物の懐へと飛び込む。その巨体の隙間を縫うように移動し、拳を振り上げる準備を整えた。その瞬間、手袋の甲に描かれた紋様が微かに光を帯びる。
「っらぁ!」
渾身の一撃を怪物の胸部に叩き込む。鈍い衝撃音が響き、怪物の巨体が一瞬よろめいた。その動きが鈍るのを見て、俺はすぐさま後退し、次の攻撃に備える。
だが、怪物は倒れるどころか、さらに激しい唸り声を上げて立ち上がった。全身の殻のような外装が硬化し、赤い目が鋭く光る。明らかに次の一手を準備している。
「しぶといな…まあ、そう簡単には終わらせてくれねぇか。」
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