第21話 どうした?もっと来いよ!

学校の帰り道、今日も俺はまっすぐ帰る気になれず、少し遠回りをしてみることにした。住宅街を抜けて、静かな公園の横を歩いていると、ポケットの中のペンダントがふと震え出した。


「…きた。」


この前は静かだったのに、今日は違う。ペンダントは微かに熱を帯び、明らかに何かを訴えている。足を止め、周囲を見渡すが、特に異常な様子は見当たらない。それでも、この感覚を無視できないのは以前の経験があるからだ。


俺は迷わず、ペンダントが反応を強める方向へと足を向けた。細い路地を抜け、少し広い駐車場の近くまで来ると、ペンダントの震えが一層強くなった。


「ここか…?」


声に出すまでもなく、答えはすぐにわかった。駐車場の隅で、黒い霧のようなものが渦を巻いている。その中心から、ゆっくりと異様な姿をした怪物が現れた。


その怪物は、全身が粘土のようにぐにゃぐにゃと動きながらも、人型を模した不気味な姿をしていた。腕は異常に長く、地面を引きずるほどで、爪のようなものが鋭く光っている。怪物の赤い目がこちらをじっと見据えた瞬間、全身に寒気が走った。


「…仕方ねえな。」


ポケットの中でペンダントを握りしめる。その瞬間、あの光が再び俺を包み込む。全身が熱を持ち、視界が白に染まる。何度経験しても、この感覚には慣れない。



眩しい光が収まり、魔法少女の姿になった俺は、拳を構えながら怪物を見据えた。黒いスーツと銀の装飾、そして両手には力を込めるたびに淡く光るグローブ。見た目は完全に魔法少女だが、この拳を振り下ろす力は物理的に最強だ。


怪物が低い唸り声を上げながら腕を振り上げる。長くしなるその腕が、ムチのようにしなりながら俺に迫ってきた。


「甘いんだよ!」


俺はその攻撃を正面から受け止めるつもりで、拳を突き出した。手袋の甲に描かれた紋様が光り、衝撃を吸収しながら怪物の腕を跳ね返す。鋭い音が辺りに響き、怪物が後退する。


「どうした?もっと来いよ!」


挑発するように言いながら、一気に間合いを詰める。怪物は反撃するようにもう片方の腕を振り下ろしてきたが、俺はそれを横に逸らし、全身の力を込めて拳を振り上げた。


「これでも喰らえ!」


拳が怪物の胸に直撃する。鈍い衝撃音と共に、怪物の体が後ろへ吹き飛び、地面に叩きつけられた。だが、完全には倒れない。怪物の体が再び霧のように形を変え、ゆっくりと立ち上がってくる。


「しぶといな…!」


再び構え直すと、ペンダントが軽く震えるのを感じた。まるで「まだやれる」と言われているようだった。俺は深呼吸をし、一気に踏み込んだ。


怪物の動きが一瞬鈍ったその隙を見逃さず、俺は全身の力を拳に込める。ペンダントが光を放ち、手袋の紋様がさらに強く輝くのを感じた。


「これで…!」


渾身の一撃を怪物の中心に叩き込むと、衝撃波が周囲に広がり、怪物が断末魔のような音を上げながら霧散していった。黒い霧が完全に消え去り、辺りに静寂が戻る。


肩で息をしながら、俺は拳を下ろした。怪物が完全に消えたことを確認し、ようやく緊張が解けた。


「やれやれ…これで終わったか。」


ペンダントは静かになり、光も消えている。どうやら本当にこれで一段落ついたらしい。


俺は変身を解くと、静かな街の中に戻りながら、少しだけ誇らしい気分で家に向かって歩き始めた。

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