第19話 みんなの見る目変わった気がするぞ。いい意味でな

朝のチャイムが鳴り響く教室で、俺はいつもとは少し違う気持ちで席に座った。昨日の出来事が心の奥に小さな火を灯したようだった。それは「自分にもできることがある」という自信だったのかもしれない。


1時間目の数学の授業中、隣の席の田中がノートをめくる手を止めて困った顔をしているのが目に入った。


「どうした?」


「いや、この問題さっぱり分からなくて。」


いつもなら「頑張れよ」と軽く流すところだが、今日は何となく声をかけたくなった。俺は自分のノートを少しずらし、田中が見えるようにして言った。


「ここ、ほら、この公式使えばいけるだろ。」


「あー…なるほど。そういうことか!」


田中の顔がパッと明るくなった。「助かったわ!」と笑うその顔を見て、ちょっとだけ嬉しくなった。



休み時間、廊下を歩いていると、他のクラスの友人が教科書を抱えて慌てているのを見かけた。


「どうしたんだ?」


「あ、陸。いや、次の授業で先生に提出するプリント、まだ書き終わってなくてさ…!」


その声には焦りが混じっていた。俺は軽く肩をすくめて言った。


「手伝おうか?全部は無理だけど、どのページが分からない?」


友人は目を丸くしながらも、「いいのか?」と少し戸惑った様子で聞いてきた。


「いいって。お前が怒られるの見たくないからな。」


それを聞いて友人は安心したように頷き、俺たちは一緒に急いで問題を埋めた。ギリギリで提出できた友人は、「お前、意外といい奴じゃん!」と笑いながら礼を言ってきた。



昼休み、クラスの後ろでは何人かが椅子を囲んで話し込んでいた。その中の一人が何かに悩んでいるのが聞こえた。


「どうする?明日の準備、全然進んでないじゃん。」


「先生の決めたリーダー、全然仕切れてないし…」


俺はその声に足を止め、自然とその輪に加わっていた。


「じゃあ、俺がちょっとまとめてみようか?」


「え?お前が?」


その場にいた数人が一瞬驚いた顔をした。だが、俺が「とりあえず、どの順番でやればいいのかだけ決めれば進むだろ」と言うと、すぐにみんなが頷いた。


短い昼休みの間に、役割分担を決めて明日の計画を立てた。最後に「これでうまくいくだろ」と言うと、全員が笑顔で「お前、こんなことできるタイプだったか?」と軽く笑った。



放課後には、掃除当番が誰か分からなくて手をこまねいている様子が目に入った。普通ならスルーするが、今日は少し違った。


「俺も手伝うから、さっさと終わらせようぜ。」


手伝った俺に「ありがとな」と言われた時、何か小さな達成感が胸に広がった。



その日の帰り道、田中が隣に歩きながら不思議そうに俺を見た。


「お前、今日どうしたんだよ。なんかいつもよりすげー動いてたじゃん。」


「別に。ただ、やれることやっただけだろ。」


そう言いながら、俺はふと空を見上げた。特別なことをしているわけじゃない。ただ、目の前で困っているやつを見たら動いてみる。それだけだ。


「でもな、なんかお前、今日でみんなの見る目変わった気がするぞ。いい意味でな。」


田中の言葉に、少しだけ頬が熱くなるのを感じた。


「そんなん、どうでもいいだろ。」


「お前がどうでもいいって言うのが一番信用できねぇわ。」


田中が笑いながら言うその言葉に、俺もつい笑ってしまった。学校生活はいつもと同じはずだったが、何かが変わり始めている――そんな気がした。

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