第17話 そんなことするタイプだったっけ?

翌朝、目覚ましの音で目を覚ます。昨日の疲れがまだ少し残っているけど、不思議と体は軽い。布団から起き上がり、制服に着替えながらふと考える。


「昨日のこと、まだ夢みたいだけど…なんか悪くない気がするんだよな。」


少年の笑顔が頭をよぎると、胸の奥が少し暖かくなる。いつもは億劫だった学校へ行く足取りも、今日はどこか軽かった。



教室に着くと、いつものように周りの友人たちが話しているのが見えた。田中もその中にいる。いつもなら適当に席に座ってスマホをいじるだけだけど、今日は少し違った。自然と足がそっちに向かっていた。


「おーい、田中!」


「え、陸?どうした?」


俺が自分から声をかけるのが珍しかったのか、田中は驚いた顔で振り返った。周りの友人たちも「珍しいな」と言わんばかりの視線を向けてくる。


「いや、話でもしようかなと思ってさ。」


適当に言葉をつなぐと、田中は笑いながら「お前らしくねえな」と肩を叩いてきた。でも、その後の話の流れは自然で、特に気まずさはなかった。



授業中も、周りの空気が少し変わった気がした。隣の席の友人がペンを落とした時、つい手を伸ばして拾って渡した。


「お、ありがとな、陸。」


「いいって、別に。」


当たり前のことをしただけなのに、相手が少し驚いたように見えた。俺って、そんなに今まで気が利かないやつだったのか?


次の休み時間には、黒板の掃除を忘れていたクラスメイトが慌てているのを見つけた。思わず俺は雑巾を取って一緒に拭き始めた。


「え、陸?お前、そんなことするタイプだったっけ?」


「いや、手が空いてただけだって。」


そう言いながら軽く笑うと、相手も「助かるわ!」と明るく笑った。どうやら俺の行動が少しずつ周りに影響を与えているらしい。



昼休みになると、田中が再び俺の席にやってきた。


「お前、今日なんか変じゃねえ?」


「変って何だよ。」


「いや、いつもより…なんていうか、親切っつーか。珍しく自分から動いてるし。」


田中が半分冗談交じりで言うのに、俺は適当に肩をすくめて笑って流した。


「そんなことないだろ。ただ、気が向いただけだって。」


その時、近くで別の友人がノートを落としているのに気づいた。反射的に拾って渡すと、「あ、ありがとう!」と軽くお礼を言われた。田中はその様子を見てにやにやしながら俺の肩を叩く。


「お前、マジでどうしたんだよ。モテたいのか?」


「違うっての。ただ、できることはやろうと思っただけだよ。」


そう答えると、田中は「まぁ、それはそれで悪くないかもな」と笑った。周りの男連中が少し俺を見る目を変えたのがわかる。特に何も意識していなかったけど、これまでの俺より好印象を持たれている気がした。



その日の授業が終わる頃には、いつも以上にクラスでの一体感を感じていた。俺が何かしたからというわけでもないけど、なんとなくみんなの中に溶け込んでいるような感覚だった。


「…悪くないかもな、こういうのも。」


小さく呟きながら、俺はカバンを肩にかけ、明日の自分も少しだけ楽しみに思いながら教室を後にした。

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