第10話 いつか、一緒に戦う日が来ると思うから
怪物との戦いを終えた僕は、ようやく元の姿に戻ったことで、家に帰る決意をした。この時間なら、家族もまだ起きているはずだ。泊まると言った手前、何か言い訳を考えないといけないが、今はとにかく家に帰って休みたい。
自宅の玄関に足を踏み入れると、リビングから母親の声が聞こえてきた。
「あら、陸。泊まるんじゃなかったの?」
母はソファで洗濯物を畳みながら、少し驚いた顔を見せた。普段と変わらない、柔らかな声だ。
「ごめん、急に予定が変わってさ。やっぱり家に帰ることにしたんだ。」
適当な理由をつけてごまかす。母は特に疑問を持たなかったようで、「そうなのね」とだけ返してくれた。
その隣では妹の美羽がタブレットをいじっていた。僕の姿を見るなり、ジト目でこちらを見上げる。
「お兄ちゃん、泊まるとか言ってたのに、結局帰ってくるんだ。優柔不断だね。」
「うるさいな。予定が変わっただけだって。」
軽く言い返すと、美羽は「ふーん」と興味なさそうに視線をタブレットに戻した。いつも通りの反応に、少しだけほっとする。
リビングの奥では、父が新聞を読みながらビールを飲んでいた。僕に気づくと、ちらりと顔を上げて短く一言。
「おかえり。まあ、飯ならまだあるからな。」
それだけ言うと、再び新聞に視線を戻した。父らしい無愛想な対応だが、逆にそれがありがたかった。
「ありがとう。じゃあ、ちょっと何か食べるよ。」
僕はリュックを置き、キッチンに向かう。冷蔵庫を開けると、ラップに包まれた夕飯のおかずが並んでいた。どうやら、ハンバーグと野菜炒めが今日のメインらしい。
テーブルに座ってそれを温め、急いで箸を取る。日常の食事がこんなに安心できるものだとは思わなかった。戦闘の緊張から解放された今、体がエネルギーを求めているのがよくわかる。
「ふぅ…やっぱり家の飯が一番だな。」
食べ終わった後、僕はリビングに戻り、母に一声かけてから風呂に向かった。シャワーを浴びて湯船に浸かると、全身の疲れがじわじわと抜けていく気がした。
「本当に…大変な一日だったな…」
湯気の中でペンダントのことを思い出す。あれがなければ、怪物と戦うことも、あんな姿になることもなかった。だが、あれがなければ、僕は今ここにいなかったのも事実だ。
風呂から上がり、髪を乾かして部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。天井を見上げながら、今日の出来事を思い返す。学校に向かう途中で突然巻き込まれた異常な空間、魔法少女としての戦い、そして帰り着いた日常。
「これから…どうなるんだろう…」
考えれば考えるほど、疑問は尽きない。だけど、今はただ眠りたかった。布団に包まり、疲れ切った体を横たえると、意識はすぐに遠のいていった。
*
月明かりが差し込む小さな広場で、ソフィアは一人のチームメンバーと向き合っていた。二人の間に流れる空気は穏やかだが、どこか真剣さも漂っている。
「新しい子、会ったんでしょ?」
メンバーの一人が問いかけると、ソフィアは軽く頷いた。その仕草には、どこか嬉しそうな表情が浮かんでいる。
「うん。今日の戦闘で会ったの。まだ何も知らない感じだったけど…とても強かった。」
その言葉に、メンバーは少し眉をひそめた。
「強いって?初めての戦闘なんでしょ?」
「そう。初めてなのに、何て言うのかな…動きが自然だったの。自分の力をどう使えばいいのか、全く考えていないのに、結果的に正しい使い方をしてた。」
ソフィアの口調には驚きと感嘆が混ざっていた。メンバーは腕を組みながら考え込む。
「…珍しいね。普通は戸惑うはずだけど。」
「そうでしょ?でも、あの子は違った。ただ、それだけじゃないの。力を使う時に迷いがなくて…それがすごく印象的だったんだ。」
「迷いがない、ね。まあ、力を使えるのはいいけど、性格とか、そういう部分はどうだったの?」
メンバーの質問に、ソフィアは少し笑った。
「性格?うーん…ちょっと変わってるかも。仲間と一緒にやるより、一人で動きたいって言うのよ。」
「一人で?」
「そう。でも、あの子が拒絶しているわけじゃないの。むしろ、自分のペースでやりたいだけって感じ。悪意とか、そういうのは全然なかった。」
「ふーん…それで、ソフィアはどうするつもり?」
メンバーの視線がソフィアに向けられる。彼女は一瞬考え込んだ後、優しく微笑んだ。
「今は無理に関わらない方がいいと思う。あの子自身がまだ戸惑ってるのは見ていてわかったし、焦らせたら逆効果になる。」
「確かにね。無理に引き込んでこじれるのは避けたいし。」
「だから、ゆっくりと信頼を築いていくのがいいと思うの。今は一人でやるって言ってるけど、きっとどこかで助けが必要になるはず。その時に、ちゃんと私たちがいるって思ってもらえればいい。」
ソフィアの言葉に、メンバーは少しだけ笑みを浮かべた。
「まあ、君がそう言うなら、そうするのが一番だろうね。」
「うん。だから、まだ見守るだけにしておいて。いつか、一緒に戦う日が来ると思うから。」
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