第7話 困った時は言ってくれ
「ねえ、これからどうするつもりなの?」
ソフィアが軽い口調で尋ねてきた。その言葉に、僕は一瞬返答に詰まる。どうするつもりも何も、この異常な状況から抜け出したいのが本音だ。でも、それが簡単にできるはずもない。
「どうするって…とりあえず、元の場所に戻りたいかな。」
そう言うと、ソフィアは困ったように首を振った。
「それがね、すぐには難しいんだ。魔法少女に選ばれた以上、ペンダントの力が完全に馴染むまでは、この力と付き合っていかなきゃならないの。」
「馴染む…って、どれくらいかかるんだ?」
「それは人によるけど、完全に馴染むには、少なくとも何度か戦いを経験しないといけないよ。」
戦い、と聞いて、僕は少し身を引いた。さっきの黒い影や仮面の敵との戦闘を思い出し、自然と拳を握りしめる。
「つまり、あいつらとまた戦わなきゃならないってこと?」
「うん、そういうこと。でも、君はさっきの戦いを見てもわかる通り、ちゃんと力を使えるみたいだし、きっと大丈夫だよ。」
ソフィアは軽く笑いながらそう言ったが、僕には到底気楽にはなれない。そもそも、こんな姿で戦い続けることにどうやって慣れろというんだ。
「だったら…君たちはどうやって戦ってるんだ?一人で全部やるのか?」
「ううん、私たちはチームを組んでるよ。一人じゃ大変だし、仲間がいればお互いに助け合えるからね。」
「チーム…。」
その言葉に、僕の胸に不安がよぎる。もしチームに入ったら、他の人たちと密接に関わることになる。そうなれば、いずれ僕が男だということがバレるかもしれない。
「それでさ、どう?君も私たちのチームに入らない?」
ソフィアがにこやかに誘ってくる。その笑顔は心からのもので、悪意など全く感じられない。だからこそ、断るのが心苦しい。
「いや…僕は、ソロでやらせてもらうよ。」
その言葉に、ソフィアは目を丸くした。
「ソロ?でも、一人で戦うのは結構大変だよ。君もさっきの戦いでわかったと思うけど、敵は強いし、いつどこで現れるかわからないんだから。」
「わかってる。でも…僕には僕のやり方があるんだ。」
僕は苦し紛れにそう言った。本当の理由は言えない。男だとバレたらどうなるか、考えるだけで恐ろしい。ソフィアのように純粋に魔法少女として活動している人たちにとって、僕の存在は明らかに異質だ。
「そう…君がそう決めたなら、無理に誘うつもりはないよ。」
ソフィアは少し寂しそうな顔をしたが、それ以上は追及してこなかった。
「ただ、一人で戦うのは本当に大変だから、困った時はちゃんと頼ってよね。」
「もちろん、君も困った時は言ってくれ。助け合うくらいはできるはずだから。」
僕がそう言うと、ソフィアは少しだけ表情を明るくした。
「それならいい。仲間じゃなくても、同じ魔法少女として協力できる関係なら、それで十分だよ。」
「ありがとう。」
そう答えながら、僕は少しホッとした。ソフィアは本当にいい人だ。もし普通にこの力を受け入れられる状況だったら、彼女と一緒に戦うことも悪くなかったかもしれない。でも今は、それができる状況じゃない。
「じゃあ、今日はここで解散しようか。君もいろいろと考えたいことがあるだろうし。」
ソフィアは軽く手を振りながらそう言った。僕も小さく頷いて応じる。
「そうだね。ありがとう、ソフィア。」
「こちらこそ、これからよろしくね。じゃあまた。」
彼女は微笑みを浮かべながら、霧の中へと消えていった。その背中を見送りながら、僕は深く息を吐いた。男である自分を隠しながらこの力を使い続けるなんて、本当にやっていけるのだろうか。そんな不安が胸をよぎる。
「まあ…やるしかないよな。」
誰にも聞こえないようにそう呟きながら、僕は霧の向こうへと歩き出した。
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