第2話 ただの噂だろ
今日も特に変わり映えのしない朝だった。母親がリビングで朝食を用意して、父親がテレビを見ながら新聞を広げている。俺はというと、いつものように制服を着て、朝のぎりぎりの時間に席に座る。
「お兄ちゃん、遅いよ。いつもそうだよね、ほんとだらしない。」
妹の美羽が、トーストをかじりながらジト目でこっちを見てくる。朝からそんな顔を見せられるのは正直うんざりだ。
「うるさい。俺には俺のペースってもんがあるんだよ。」
そう言い返しながらも、内心ちょっと焦ってる。実際、時間ギリギリで家を出るのは俺の日課みたいなもんだけど、今日だけはさすがに間に合うかどうか怪しい。だって昨日、深夜までゲームやってたせいで寝不足なんだ。
「もう、いいから急ぎなよ。ママ、またお兄ちゃん遅刻するって。」
美羽が母親に告げ口しようとするのを無視して、トーストをひと口かじって牛乳を飲み込む。それからカバンを掴んで立ち上がった。
「行ってきます。」
一応それだけは言っておく。別に礼儀正しいとかそういうわけじゃないけど、言わないと母親が後でうるさいからな。家を出てみると、いつもの通学路が広がっていた。どこにでもある普通の住宅街で、特別な景色なんて何もない。自転車で通り過ぎるおじさんとか、犬の散歩をしてる近所の人とか、いつも見る光景だ。
学校までは徒歩で15分くらい。歩きながら考えてたのは、今日のゲームのことだった。昨日の夜、ちょっといい感じの武器を手に入れたんだ。放課後にログインしたら、それを試してみたいなとか思いながら、ふと前を歩くクラスメイトに気づいた。
「あれ、陸じゃん。おっす。」
声をかけてきたのは田中。俺とは中学の頃からの付き合いで、今も同じクラスだ。別に特別仲がいいわけじゃないけど、たまたま部活とかの関係でよく話すようになった。
「よう。今日も元気そうだな。」
適当に返事をしながら歩くペースを合わせる。田中はバスケ部で、やたらとエネルギッシュな奴だ。俺とは対照的で、部活だの大会だのに忙しいみたいだが、俺にはそれが理解できない。そんなに頑張る理由がどこにあるんだろうな。
「そういえばさ、昨日の夜、変な夢見たんだよ。空から何か落ちてきて、気づいたら周りが真っ暗になってるってやつ。」
田中がそんなことを言い出した。夢なんてどうでもいい話だけど、何となく聞き流す。
「へえ、それで?」
「いや、それだけなんだけどさ。ちょっと不気味じゃね?ほら、最近クラスメイトがいなくなったとかいう噂あるだろ?」
「そんなのただの噂だろ。深く考えるなよ。」
適当にそう言っておく。確かに、最近学校で女子が一人、行方不明になったって話は耳にしてたけど、俺にとっては関係のない話だ。警察とか家族が動いてるんだろうし、俺が何かできるわけでもない。
その時だった。学校の近くに差し掛かったところで、急に妙な音が聞こえた。何て言うか、金属がこすれるような、耳障りな音だ。
「おい、聞こえたか?」
田中が立ち止まる。俺も足を止めて周りを見回したけど、特に何もない。さっきまで普通だった通学路が、急に異様な雰囲気に包まれたような気がする。
「なんだこれ……?」
不安そうな田中を見ながら、俺も心の中で警戒してた。けど、次の瞬間、目の前の空間が歪むような感覚がして、俺たちは言葉を失った。
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