勇者と英雄〜運命を担う者・宿命を背負う者〜

柑橘 蜜柑

プロローグ

雨が降っている。

止むことがない雫だけが音を紡ぐ。

「なんで、なんでなんだよ!◯◯」

その静寂を切り裂くように怒号と剣が斬り合う音が響く。

「理由か。強いて言えばお前は勇者で俺が英雄だからだろうな!」

二人の少年は己の意志をぶつけるように刃を向ける。

かつては親友であり、仲間であった

今は敵である者へと。

どちらかの意志が折れるその時まで、、、



「夢か、変な夢だったな」

シン=ペンドラゴン(15歳)は眠い目を擦りながらゆっくりとベットから体を起こす。

そして、夢の内容を思い出しながら学校へ行く準備をする。


(剣なんか握ったこともないのにあんな夢を見て、ましてや勇者?疲れすぎかな)


そんなことを考えつつも近くにあったカバンを手にとり玄関へと向かう。朝食は食べない派であった。


「行ってきます」


靴箱の上に置いてある家族写真に挨拶をして、重い足取りをあげて外へ出る。平凡な1日の始まりを告げる一歩だ。








「あーあ憂鬱だ」


今年の春から高校生になって2ヶ月だが未だに友人と呼べる人物がいないシンは1人机に突っ伏して小声で愚痴をこぼしていた。


(1限目は、うわ、魔術学か。なんで魔術を使えない人達にこんなもん教えるかな)


「じゃあ、授業を始めるぞ」


扉をあけて先生が入ってくる。学生が一番聞きたくないであろう言葉と共に苦痛の時間は始まる。


「で、あるから言語は魔術によって誰にでもわかるようになったが、魔王軍との戦いは未だに、

って、おいシン!貴様聞いているのか!」


「あーすいません聞いてませんでした。」


シンはボーっと窓から雲一つない青空を見ていて、授業を聞いていなかったため、素直にあやまる。

それと同時に周りからヒソヒソと聞きたくもないであろう言葉が聞こえてくる。


{ほら、あいつ親いねぇーから勉強できねぇーだよ]

[そんなこと言ったら悪いだろw]

[やめなよあの子もあの子なりにやってるんだからさww]





(これだから学校は嫌なんだよ)


そんな現実から目を逸らすように窓の外へと目を向ける。雲一つない快晴が朝からずっと続いているはずの空を見て切り替えようとしたのである。


「あれは、」


シンがそう呟くと同時に空にあった黒い亀裂が機械が潰れるような音を立てながらゆっくりと開く。


「魔王軍の侵攻だー!」


教室の誰かがそう叫ぶ。それと同時に湧き上がる悲鳴。皆はすぐに逃げようと教室から出ていく。しかし時すでに遅し、学校はすでに黒い結界で覆われてしまっていた。それを見たシンはゆっくりと席を立って大きく深呼吸をした。


(ごめん、父さん、母さん。僕は今日、貴方達のあとを追うかもしれない。でも、そうだとしても、あなた達との約束だけは果たすから)


そして、シンはパニックになっているクラスメイトを掻き分け走りながら教室を後にするのだった。


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