第6話 悪役令嬢は勇者と結婚します!

 一連の経緯を聞いた後、私はその場にいらっしゃったルークベルクの国王陛下にご挨拶を済ませると、アルベルト様の転移魔法でバドニール王国の王城に赴いた。


 ちなみに、使用人部屋にある私の荷物は、後日エーデルワイス家に送られるとのこと。


 1年ぶりにバドニールに帰ってきた私は、息つく暇も無いまま侍女達に連れられて客室に入ると、用意されていた金色の刺繡が施された青色のドレスに身を包み、貴族令嬢らしい身なりに整えてもらった。


 そして、正装に着替えて迎えに来てくれたアルベルト様にエスコートされ、バドニールの国王陛下と大勢の貴族が集まっている謁見の間に通された。



「ティナ・エーデルワイス侯爵令嬢。此度の件、大変申し訳なかった」

「あ、頭をお上げください! 国王陛下!」



 ――元はと言えば、破滅回避をするためにお父様に進言した私が悪い。むしろ、私の我儘に陛下を巻き込んでしまってことが大変申し訳なかった。


 一国の主に頭を下げられ、困惑している私の隣で、謁見の間に入る直前に渡された大剣を担いでいるアルベルト様が、冷たい笑みを浮かべながら口を開いた。



「では父上、ここで宣言してください。『勇者パーティーとして活躍した聖女は、エーデルワイス家を乗っ取るために魅了の力を使ったとして、エーデルワイス家から勘当した後、北の地にある修道院に追放する』と」

「っ!」



 北の地の修道院。それは、入ったら2度と生きて帰れないとされている我が国で一番厳しい修道院で、主に国を脅かす大罪を犯した女性が入れられる。


 ――小説では確か、悪役令嬢の取り巻き達が入れられた場所だったわね。


 そんなことを考えると、後ろからアリアの甲高い声が聞こえてきた。



「嫌よ! 私はヒロインなのよ! どうして悪役令嬢の取り巻き達が行った場所に……」

「じゃあさぁ」



 背後で喚き散らしていたアリアの前に瞬間移動したアルベルト様が、無表情で大剣を彼女の首に突き立てる。



「このまま僕に殺される?」

「ヒッ!」



 アルベルト様の怖すぎる殺気にあてられたアリアは、白目を向くとそのまま泡を吹いて倒れた。

 聖女兼ヒロインらしからぬ醜態を目の当たりにし、興が覚めたアルベルト様は、大剣を鞘に収めると、再び瞬間移動で私の隣に戻ってくる。



「ごめん、怖い思いをさせて。だけど、これでもう君を脅かす者は誰一人としていなくなるから安心して」

「は、はい……」



 ――何か物凄く怖いことを言われた気がする。


 目が笑っていないアルベルト様を見て、頑張って口角を上げた時、国王陛下がわざとらしい咳払いをする。



「コホン。それでは、聖女アリア・エーデルワイス侯爵令嬢とその母親セイラ・エーデルワイス侯爵夫人は、共謀して第2王子の婚約者を貶めたとし、母娘共に勘当された後、北の修道院に追放。そして、当主ジェイミー・エーデルワイス侯爵は、王族の婚約者を蔑ろにした挙句、王族を唆して婚約者を変えようとしたとして斬首刑に処す」

「そ、そんな……」



 顔色を失ったお父様がその場にへたり込むと、近くにいた騎士達に引きずられるようにその場を後にした。


 ――なるほど、確かに私を脅かす人間は誰一人としていなくなったわね。


 出て行った父親の絶望顔を無感情で見送っていると、いつの間にか跪いていたアルベルト様に両手を取られた。



「ア、アルベルト様!?」

「ティナ、お茶会で初めて君を見た時、凛々しくも愛らしい君に一目惚れした。だから、君と婚約したし、君が安心して暮らせるよう魔王討伐をした。あと、君に危害が加えられないよう、あのクソ女の気を惹いていたんだよ」

「そ、そうだったんですね」



 ――聖女を『クソ女』って言いましたね。それに、悪役令嬢のために魔王討伐って。


 小説とは違う展開に少しだけ遠い目をしていた私を、ゆっくりと立ち上がったアルベルト様が抱き締めた。



「今まで寂しい思いをさせてごめん。けれど、これからは君のことをたくさん甘やかして、僕しか見られないようにして幸せにする。だから、僕と結婚して」



 ――一瞬、怖いこと言われたけど、まぁ……


 キラキラと王子様スマイルを見せたアルベルト様に私は小さく首を縦に振った。



「はい、よろしくお願い致します。アルベルト様」



 物心ついた頃からアルベルト様が好きだった悪役令嬢の私には、願ったり叶ったりです!

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【短編】悪役令嬢は婚約破棄がしたい! 温故知新 @wenold-wisdomnew

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