第5話 全ては悪役令嬢のためでした
「アル、ベルト様?」
――どうしてここにいるの? あなたは、聖女と結ばれるんじゃなかったの?
小説とは明らかに違う展開に言葉を失っていると、騒ぎを聞きつけた騎士達が、なぜか帰国直後の国王陛下と他の王族の皆様を連れて現れた。
「やはり、こうなってしまったか」
「陛下?」
清々しい笑みのアルベルト様と、その後ろにいる人達を見て、深く溜息をついた陛下がアルベルト様に視線を戻された。
「一先ず、謁見の間に来られませんか? そちらに拘束魔法で縛られているお仲間様達も一緒に連れて行きますので」
「えっ!?」
陛下の言葉に驚き、慌ててアルベルト様の背後に視線を移すと、そこには拘束魔法で何重にも縛られている勇者パーティーの面々がいた。
その中にはもちろんアリアがいて、私を鬼の形相で睨みつけていた。
――どういうこと? どうして皆、縛られているの?
「いや、僕は愛しいティナを迎えに来ただけだからこれで帰らせてもらうよ」
「えっ、キャッ!」
アルベルト様に抱き寄せられていた私は、流れるようにお姫様抱っこされ、逃げられないようにきつく抱き締めた。
――アルベルト様、8年前にお見掛けした時より随分と鍛えられて……って、そうじゃない!
「お姉様! アルベルト殿下は、最初からお姉様と幸せに結婚するために魔王討伐をしていたのです!」
「えっ!?」
――私との結婚!? 一体どういうこと!?
目を丸くする私に、不機嫌そうなアリアが小説では語られなかった事実を話し始めた。
聖女の力に目覚めたアリアは、王命で我がエーデルワイス家に母親と共に迎え入れられた際、既にアルベルト殿下の婚約者であった私に酷く嫉妬し、私から全てを奪おうと、母親と共謀し、根も葉もないことを周りに話して私を陥れた。
加えて、聖女にしか使えない魅了魔法を使い、私の周りにいた人間全員を味方につけて私から全てを奪うと、憧れだったアルベルト様と親しい関係になった。
彼の婚約者になるのも時間の問題……かのように思えた。
「お姉様より私のことを大切にしてくれた殿下に『ついにお姉様から全てを奪い取った』と優越感に浸っていた。けれど、魔王討伐から帰ってきて、謁見の間で陛下からアルベルト殿下の婚約者がお姉様から私に代わったことが伝えられた時、状況が一変したの」
その時のことを思い出し、カタカタと唇を震わせるアリアを見て、遠い目をしていた陛下が深いため息をつかれた。
「そこから先は、私の方から話そう」
そう言って、陛下は謁見の間でのことを話し始める。もちろん、他言無用で。
謁見の間でバドニール国王から婚約者が私からアリアに変わったと聞いた瞬間、勇者にしか扱えない大剣を引き抜いたアルベルト様は、一瞬で玉座に座る国王の喉元に刃を突き立てた。
国に対する反逆行為とも取れる行動に、その場にいた全員が唖然とする中、無表情のアルベルトがたった一言、実の父にこうおっしゃった。
「『婚約者をティナに戻せ。さもなくば、この国を滅ぼす』ってね♪」
――怖っ! 婚約者が変わっただけで国を滅ぼすなんて怖すぎるわよ!
ニコニコ顔で恐ろしいことを口にしたアルベルト様に、周囲にいた人間はおろか、お姫様抱っこされて高揚していた私の気持ちが一気に冷めた時、心底呆れたようなため息をついた陛下が話の続きをする。
「そして結局、バドニール国王はその場で婚約者を聖女様からエーデルワイス侯爵令嬢に戻すことを決めた」
「そう。それで、その場でティナがどこにいるか情報を聞き出して、こうして迎えに来たってわけ♪」
「は、はぁ……」
ちなみに、勇者パーティー全員が拘束魔法で縛られていたのは、転移魔法でルークベルクに行こうとしたアルベルト様を止めた際、勇者に返り討ちに遭ったからだそうな。
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