第19話 次なる修行の始まり!

「おお、龍斗よ。体の調子はどうじゃ?」


「師匠! ご覧の通り、もうばっちりですよ!」


「そうか、そうか。それは良かった。リピアよ、龍斗の面倒を見てくれたこと、感謝するぞ」


「命の恩人に対して当然のことをしたまでです。ダンさんこそ、みんなの治療に手を貸してくださってありがとうございます」


「ほっほ! 憑き物が落ちたような穏やかな表情を見せるようになった。お主も、もう安心じゃな」


 ある程度医療の知識を持っていたダンは、ライトに協力して毒を克服しつつある患者たちの治療に当たっていた。

 龍斗だけでなく、彼にも世話になったリピアが感謝を述べれば、ダンも憎しみに囚われていた彼女の心が解放されたことを喜ぶように頷きながら言葉を返す。


 そんなふうに若者たちの様子を見守るダンへと、龍斗が気合い満々といった様子で口を開く。


「師匠! 俺も回復しましたし、修行を再開しましょう! みんなを守るためにも、俺はもっと強くなりたいんです!」


「ほっほ、その心意気や良し! じゃが、焦る必要はないぞ、龍斗よ。何せお前は、こうしている間にも強くなっているんじゃからな」


「えっ!? 俺、ただご飯を食べて休んでただけですよ? それで強くなってるっていうんですか?」


 ただ休んでいただけで自分は強くなっているという意味深なダンの言葉に、驚きと疑問を抱いた龍斗が言う。

 その言葉に対して、ダンは大きく頷きながらこう答えた。


「左様。肉体は、一度徹底的にいじめ抜いた後でしっかりと回復させることで強くなる。毒に抗うために限界を超えて体力を消耗したお主の体は、よく食べ、よく眠ることで急成長を果たしておるのじゃよ」


「言われてみれば確かに、前よりも気力も体力も充実しているような……?」


「前回の戦いの中で真の姿への変身を果たしたことも含め、お主の強さは大幅にレベルアップしておる。休むこともまた修行じゃぞ、龍斗」


「な、なるほど……!! 流石師匠! 勉強になります!」


 ただ鍛えるだけが修行ではない。時に休むことも成長につながるのだというダンの言葉に、目を輝かせながら龍斗が頷く。

 自分を尊敬する弟子の眼差しに少し嬉しそうな様子を見せたダンは、小さく咳払いをすると彼へとこう言葉を続けた。


「じゃがまあ、次に行う修行の内容について話すくらいはいいじゃろう。龍斗、お主が先の戦いで見せた、気力を込めての拳打があったじゃろう?」


「ああ! あの毒蜘蛛怪人にトドメを刺した、あの技ですね!? まあ、気力を込めて思いっきりぶちかましただけですけど……」


「あれはすごかったな! 紅の闘気を腕に纏わせながらの強烈な一撃! 格好良かったぞ!」


 蜘蛛怪人を屠った協力無比なパンチを思い返した龍斗とリピアがそれぞれに感想を述べる。

 相手の背中から貫通した気力が迸るほどの威力を誇るあの一撃はなかなかのものであったが、ダンはそれに対して意見を述べた。


「確かに威力はすさまじかった。しかし、あれはどちらかというと良くない気力の使い方じゃの」


「えっ!? そうなんですか? あんなにすごかったのに?」


「うむ。リピアも見たであろう? 龍斗の腕から、紅の気力があふれ出す様を……あれは必要以上の気力を腕に込めているせいで収まり切らなかった気力があふれ出したからできたものなんじゃ。言葉を選ばずに言うと、無駄になった気力があれだけあるということじゃよ」


「む、無駄……! そうだったんですね。格好いいから気にしてなかったけど、言われてみれば確かにそうだ……」


「加えて、力み過ぎると動きが硬くなって逆に攻撃の威力が落ちたりする。通常の拳よりは格段に威力は上がっておるじゃろうが、最高の状態で放ったものとは比べ物にならんじゃろうな」


「おうっふ……」


「げ、元気を出せ、龍斗! 私はあの技、格好良くて好きだぞ!!」


 結構ボロクソに言われてしまった龍斗ががっくりと項垂れ、そんな彼をリピアが不器用ながらも必死に励ます。

 そんな中、ダンは凹む弟子へと次の課題を出してみせた。


「しかし龍斗よ、やはりお主には才能がある。気力の量もそうじゃが、色付きの気力を出したことにもわしは驚いたわい」


「ん? 気力に色が付いてるとなんかすごいんですか?」


「まあ、そこは追々教えるぞい。いっぺんに何もかもは教えられんからの」


 ちょっと意味深な師匠の言葉に引っ掛かるものを感じつつも、順番に教えるというダンの言葉に頷く龍斗。

 ダンは少し間を開けると、改めて彼へと言った。


「龍斗よ、お主が出したその技を『紅蓮拳』と名付ける。次の修行は、それを完成させることじゃ」

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