第13話 修行の成果!!

「何が守るだ!? 俺たちがデスゲームを勝ち抜くには、奪い続けるしかないだろうがよ! そのために手に入れたチケットじゃねえか!」


「たくさんの人たちを苦しめて、泣かせた人間が王様になるだなんて間違ってる! そんな考え方が! 力の使い方が! 正しいわけない!!」


「そうかよ……! どのみち、お前はここで死ぬんだ! 俺のしもべの餌になっちまえっ!!」


「あっ! 危ないっ!!」


 拓雄の叫びに呼応するように、二体の蜘蛛怪人が龍斗を背後から急襲する。

 その光景を見て、思わず叫んだリピアであったが……龍斗は焦ることなく、振り向き様に腕を振って蜘蛛怪人たちを迎撃してみせた。


「ふっ! はっ!!」


「ギャウウッ!?」


「グギャッッ!?」


「なあっ……!?」


 振り向くと同時に繰り出された手刀が、飛び掛かっていた蜘蛛怪人の体を両断する。

 気力で生み出された赤い残光をその身に刻み込まれた蜘蛛怪人たちはそのまま空中で爆発し、跡形もなく消え去った。


「い、一撃、だと……!?」


(これほどまでとは……!! まだ気力に扱いに雑さはあるが、それでも十分な強さを見せてくれる……!!)


 龍斗はまだ完全に気力の扱いを習熟したわけではない。怒りに心を乱されているという部分もある。

 しかし、この一週間の修行で身につけた瞬間的な気力による肉体強化技術は、変身状態に慣れたことで十分に引き出せるようになったポテンシャルと相まって、龍斗にすさまじいまでの力を発揮させていた。


 手刀による一撃で下級の蜘蛛怪人を二体まとめて粉砕した彼の強さに、拓雄も恐怖の表情を浮かべている。

 最後の一体である屈強な蜘蛛怪人は牙を光らせると、倒された怪人たちよりも太い腕を振りかざし、龍斗へと襲い掛かっていった。


「ジャゴオオオオオオオッ!!」


「遅いっ!」


 上から腕を振り下ろす大ぶりな一撃を回避した龍斗が、がら空きになっている蜘蛛怪人の脇腹に拳を叩き込む。

 想像以上の破壊力によろめいた怪人へと、龍斗は容赦のない連撃を繰り出していった。


「はっ! せやっ! はああああっ!!」


 左フックと右ストレートのコンビネーションの後、追撃のタックル。

 堪らず反撃に出ようとした蜘蛛怪人の腕を掴み、その腹に蹴りを叩き込む。


 洗練されてはいないが、今日までの修行で敵に対する攻撃や防御のいろはをダンから教え込まれていた龍斗は、体に染みついたその動きで蜘蛛怪人を相手に圧倒的な戦いぶりを見せていた。


「く、くそっ! 何やってんだよ!? そんな奴にやられてんじゃねえよっ!!」


 自分の配下が一方的にやられている様子を目にする拓雄が、わかりやすく狼狽える。

 そんな彼の姿と、地面に転がったままの自分の弓を順番に見たリピアは、一度は諦めた暗殺のチャンスが再び巡ってきたことを感じ取り、ごくりと息を飲む。


(あの男の意識は戦いに向いている。今なら……やれる!!)


 拓雄が蜘蛛怪人と龍斗の戦いに気を取られている間に駆け出し、自分の弓を拾う。

 そのまま相手が反応する前に矢を放ち、暗殺を成功させる……というビジョンを思い描いたリピアは、数度の呼吸の後でタイミングを見計らい、飛び出した。


「むっ!? 待てっ! やめるんじゃ!!」


 ダンの叫びが聞こえたが、もう止まるつもりはない。

 地面に転がる弓へと手を伸ばしながら、もう片方の手を矢筒へと伸ばしたリピアは、そこから先の動きをシミュレートしていたのだが……?


「あっ……!?」


 不意にリピアの脚に力が入らなくなり、ガクンとその場に崩れ落ちてしまう。

 浅く荒い呼吸を繰り返す彼女は、そこで初めて自分が想像以上のダメージを負っていたことと、緊張感によってその痛みが薄れていたことに気付いた。


「リピア!? うわあっ!?」


「ジャゴオオオオオッ!!」


 突如として戦場に飛び込んできたかと思ったら、途中で崩れ落ちて動きを止めてしまったリピアの姿に龍斗が意識を向けてしまう。

 その隙を見逃さなかった蜘蛛怪人は彼を弾き飛ばすと、続けて身動きができない獲物であるリピアへと狙いを定めた。


(マズい! このままじゃ……!!)


 雄叫びを上げて突っ込んでくる蜘蛛怪人の姿に恐怖するリピアであったが、体がまともに動いてくれない。

 回避は不可能だと、再び蛮勇のせいで危機に陥ってしまった自分自身の愚かさを呪いながら目を閉じたリピアが体を強張らせるも、予想していた痛みが襲ってくることはなかった。


「あ、ああっ!? お前、どうして……!?」


「大丈夫、ですか……? 怪我は……?」


 恐る恐る目を開けた彼女は、自分を庇うようにして立ち、左腕で蜘蛛怪人の牙を受け止める龍斗の姿を見て、愕然とする。

 よく見れば蜘蛛怪人の牙からは黄緑色の粘液が垂れ流しになっており、あれが村の人々や自分の家族を苦しめている毒だと理解したリピアは、左右に首を振りながら呻いた。


「そんな、お前……私を庇って、毒に……!?」


 あれだけ罵詈雑言を浴びせ、戦いの邪魔をしてしまった自分のことを、龍斗は庇った。

 そして、そのせいで彼は毒を受けてしまったのだと……自らが招いた結果と彼の行動にショックを受けるリピアであったが、龍斗は一切動じることなく戦いへと集中していく。


「よくもやってくれたな! 今度は、こっちの番だ!!」


「ングッッ!?」


 左腕に気力を込め、その圧で骨を嚙み砕かんとしていた蜘蛛怪人を押し返す。

 予想外の反発に驚き、後方へと数歩よろめいた蜘蛛怪人の前で、龍斗は腰を落とし、右腕に気力を集中させていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」


 龍斗の内側から気力があふれ出し、拳から肘までを覆う赤い闘気となる。

 燃え盛る炎を思わせるような輝きを纏った龍斗は、そのまま一気に蜘蛛怪人との距離を詰めると、気力を込めた右拳を叩き込んだ。


「吹き飛べっ! 蜘蛛野郎っ!!」


「ガオオ……ッ!? グオオオオオオオオオオオオッ!!」


 全霊の気力を込めて繰り出された一撃は蜘蛛怪人の腹を捉え、相手を悶絶させる。

 強過ぎる衝撃と気力が怪人の体を貫通し、背中側から迸る中、殴り飛ばされた蜘蛛怪人は断末魔の悲鳴を上げて爆発四散した。


「う、嘘だ……!! 俺の手下が、あんな奴にやられるだなんて……!!」


 連れてきていた蜘蛛怪人たちが全滅させられたことに愕然とする拓雄。

 そんな彼に向き直った龍斗が、拳を握り締めながら言う。


「……最初で最後の警告だ。俺に天界スマホを渡せ。さもなきゃ……俺はお前を殴ることになる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る