小説家は創造力が培われるから未経験の方が有利だって知らないの?
照り付ける太陽がじりじりと肌や地面を焼く。その光線は水面に反射し、ギラギラと効果音が聞こえてきそうなほど輝いている。
そこら中に広がるパラソル。そしてそれを埋め尽くすほどの圧倒的人混み。
「よっしゃ! 海だー!」
全員が締め切り前に入稿出来たので、私達は咲嵐さんの提案により旅行へと繰り出していた。
和多さんだけ若干渋ったが、咲嵐さんの「旅行なんてインプットの塊だぞ、執筆に時間使ってるようなもんだろ」という強引な一言で首を縦に振った。
海の他にテーマパークなどの案も出ていたけど、この辺りに来夢ちゃんの知り合いが経営している宿があるらしく、口利きして宿泊費をかなり割引してくれたのが決め手になった。お金にあまり余裕がない私達は、それを聞いて迷わず海を選んだというわけだ。
交通手段は全員でお金を出しあい、レンタカーを借りた。行きは咲嵐さん、帰りは和多さんの運転だ。
実は私も免許を取ってから地元を出たので運転は出来る。しかし実技試験に4度落ちたことを話すと、すみやかに運転手から外された。結果的に免許は取れたんだから、そんなに心配することないのに。
「やっぱ海はテンション上がるな。目一杯楽しむぞ!」
「はい!」
咲嵐さんと同じで私もすごくテンションが上がっている。高校までの学生生活をほとんどぼっちで過ごしていた私には、友達だけで旅行に出かけるなんて人生で初めての経験だからだ。
咲嵐さんと和多さんが手際よくパラソルを組み立て、私と来夢ちゃんで支柱を入れる穴を掘る。そのあと敷いたシートの端に荷物を置いて固定すると、あっという間に私達の本拠地が完成した。
「春風ちゃん、オイル塗ってもらってもいい?」
「あ、来夢も」
「もちろんです。終わったら私もお願いしていいですか?」
「馬鹿馬鹿、お前ら。せっかく海に来たんだからオイル塗ってもらう男くらい探そうぜ」
「えっ!?」
「ちょっと、いきなりなにサカってんの咲嵐。処女のくせに」
「はぁ!? なんで来夢にそんなことが分かるんだよ!」
「その返し方で分かるけど」
「くそ、カマかけやがって! そういう来夢、お前だって処女だろ!」
「うん。処女だから身の程をわきまえて、最初から春風に頼んでるんじゃない」
到着して早々、咲嵐ちゃんと来夢ちゃんがえげつないワードを連呼しながら言い争いを始めてしまう。
「ちょっとあんたら、さすがにうるさい。家族連れも居るんだから静かにして」
良かった、さすが和多さん。私じゃアワアワするだけで2人を止められる気がしない。
「うるせぇ和多、どうせお前も処女なんだろ?」
「なっ!? あんた、本当にいい加減にしなさいよ! というかねぇ、小説家は想像力が培われるから未経験の方が有利だって知らないの? かの有名な作品を残した宮沢賢治だって、生涯未経験だった説が濃厚なんだから」
「じゃあ太宰治は? 女関係こじれまくってたけど、普通に有名な作品残しまくってね?」
「う、うるさい! あんただって処女のくせになんで太宰目線なのよ! それに私は単純に執筆に全てを注ぎ込みたくて、男に割く時間が惜しいだけだから!」
ちょ、ちょっとさすがにまずい。和多さんまで咲嵐さんのペースに乗せられて危ない発言を連発しちゃってる。
「お、落ち着きましょう。さっき和多さんも言ってたじゃないですか、周りの迷惑になるって。ね?」
「……うん、ごめん。そうだよね、冷静じゃなかった」
「いえいえ、分かっていただけたならいいんです」
ふぅ、よかった。なんとか事なきを得たみたいだ。
「……で、春風ちゃん。もちろんあなたも男なんていないよね? 仲間だよね?」
「ひっ! 目が怖いです和多さん!」
「わはは! お前が一番気にしてるじゃねぇか和多!」
「ねぇ、春風ちゃん? どうなの?」
「きゃああ!」
そのまま無表情でこちらへ近づいて来る和多さん。
私はそのあまりの迫力に恐怖し、逃げ出そうと海の方向へ走り出した。
しかし私の運動能力で追い付かれないわけがなく。
結局捕まってしまい、和多さんとなぜか一緒に追ってきていた咲嵐さんに抱え上げられてしまう。
「やだ、やめてください! 許して!」
「ジャアオシエテヨ、ハルカチャアン」
カタコトになっているのが怖すぎる。目的達成のためなら手段を選ばないモンスター感満載だ。
「あ! 来夢ちゃん、助けてください!」
私はいつの間にか側に立っていた来夢ちゃんに、必死で助けを求める。
「大丈夫だよ春風。カウントダウンは来夢に任せて」
「えっ!?」
「いつでもいいぞ、来夢!」
「オッケー。じゃあいくよ、3、2、1――」
「きゃああああ!」
その悲鳴を合図に、私は勢いよく海へと放り込まれてしまった。
NOぶれすおぶりーじゅ!~ワナビ女子達の生きざまに責任は伴わない~ タカサギ狸夜 @takasagiriya
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