Invitation ~スポーツゲームのような空間への招待状~

Wildvogel

第一話 不思議なスポーツシューズ

 十九歳の仙道大地せんどうだいちは友人の中山嘉子なかやまよしこと地元の閑静な住宅街を歩いていた。



 「いい天気だね。スポーツでもしたいな」



 大地はきれいな青空を眺めながら背伸びをするように両腕を伸ばす。



 「じゃあ、バッティングセンターにでも行く?大地」


 「お!いいね!行こう、行こう!」



 大地は嘉子の提案に笑顔で頷く。


 二人は近所にあるバッティングセンターへ続く道を進む。


 しばらく進むと、二人の目にあるものが映る。



 「なんだろう、あれ」



 気になった大地は箱が置かれた場所へ小走りで進む。


 嘉子は速足で大地を追いかける。



 「箱?」



 足を止めた大地の目の前には、立派な造りの箱が置かれていた。


 高級なものでも入っているのではないか。大地は中身を確認しようと箱のふたをゆっくりと開ける。



 「スポーツシューズ?」



 箱の中には、白色のスポーツシューズが詰められていた。まだ汚れなどはない。新品同様のスポーツシューズだった。


 大地はスポーツシューズを両手で持ち、膝の上へ置く。


 再び箱へ視線を向けると、一枚の用紙が入っていることに気付く。



 「なんだろ……」



 大地は用紙を右手で取り開くと、白い用紙にきれいな文字が羅列されていた。


 大地に追いついた嘉子はゆっくりとしゃがみ込み、用紙に羅列された文字を大地とともに目で追う。



 「えーと……『このスポーツシューズを履いてくださった方を楽しい空間へご招待します』だって」



 大地は文字を読み上げると、興味津々な表情を浮かべ、自身の膝の上に置いたスポーツシューズを見つめる。 


 

 「履いてみようかな……」

 


 大地はスポーツシューズをコンクリートの上へと置くと、履いている靴を脱ぐ。そして、右足をスポーツシューズへ入れようとした。


 次の瞬間、嘉子が叫ぶように声を上げる。



 「ダメだよ!履いちゃ」



 子どもを叱るような嘉子の声に驚いたように、大地は動きを止める。



 「どうしたんだよ?嘉子」


 「ダメだよ、履いちゃ。『楽しい空間』っていっても、どんな世界なのか分からないし」



 大地は若干、落ちんだ表情で嘉子を見つめる。



 「でも、ちょっとだけなら……」


 「だから、ダメだって!」



 大地は顔を俯けるようにスポーツシューズを見つめる。


 嘉子の気持ちは分かっている。


 だが、という文字には勝てなかった。


 

 「ちょ、ちょっと……!」



 嘉子の制止を振り払い、大地は彼女に背中を見せる。そして、スポーツシューズへと履き替える。


 靴紐を結んだ大地は振り向き、嘉子と正対する。



 「どう?」



 大地が笑みを浮かべた次の瞬間、彼の周囲を眩しい光が包む。大地の目は徐々に真っ白に変わる。



 「大……!」



 嘉子の叫ぶ声は途中で途絶え、耳鳴りのようなものが大地を襲った。

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