第4話 これから何が始まるんです?!

 わずか数m先のそこは、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


「霜降り伍長! 脂身★大好きおじさん! 白米ツーバウンド!(※すべてプレイヤー名)」


 幸せそうな顔でフロアに転がっているのは、俺のミトコン仲間だ。そして、中央テーブルには対戦中のスーツお姉さん。ボブカットの小柄な女性で『お姉さん』というよりは、少々幼い印象だ。対戦相手はさっき俺がボコボコにした男。


 が、俺に勝てなかったやつが、伍長らを負かした彼女に勝てるわけがない。程なくしてガクッと膝をつき「負けました」と。おい、お前俺の時はテーブル殴ってたじゃねぇか。殴れよ、今回も。


「喪神殿……」


 正気を取り戻したっぽいタキザワ氏が俺のシャツの裾を掴む。


「心配するな、タキザワ氏。敵は取る」

「いや、拙者はバトってないでござる」

「バトってないんかい!」


 よく考えたらタキザワ氏はエンジョイ勢なので、殺伐としたバトルを好まないのである。だから彼はただただフロアにスーツのお姉さん毛色の違う女プレイヤーが来た、という事実のみでパニックを起こしたものと思われる。


 中央テーブルに向かう俺に、「喪神殿」と戦友達が声をかけてくる。霜降り伍長、脂身★大好きおじさん、白米ツーバウンド。案ずるな、お前達の敵は取ってやるさ。腰を落として膝をつき、そう声をかけると、彼らは驚くべきシンクロ率で首を横に振った。普段そんな仲良くないだろお前達。


「何としても彼女をここの常連にしてくれ」

「多少の接待プレイも辞さない方向で」

「あのお姉さんともっかいやりたい」


 お前達……っ!

 それで良いのかお前達……っ!

 いや、気持ちはわかる! わかるけれども!


「……済まないが、俺にも昨年覇者としてのプライドがある。全力で行く」


 ギッ、と彼女を睨みつけながら言う。こいつらには悪いが、女だからといって手加減なんかしない。所詮はテーブル上のカードバトル。ステゴロでもあるまいし、男も女も関係ない。


「次は俺が相手だ」


 そう言って、立ち上がる。

 接待プレイだと? そんなもので手にした勝利が何になる。敗者だってここを出禁になるわけじゃない。負けて心が折れるというのなら、ミトコンへかける情熱もそれまでだったという話だ。


「今度の相手は少しは楽しめそうですね」


 さすがは歴戦の猛者共を破って来た女である。台詞がもう強者のそれだ。


 だが!

 俺は知っている!


 大抵の場合、こういう台詞を吐くやつは!


 負ける!!


「名前は?」

「はい?」

「プレイヤー名。本来は名乗ってから試合開始だろ」

「そうでしたね」

「俺は――」

「ミトコンウォリアさんですよね。昨年覇者の」

「おう」


 よく知ってたな、と言うと、「有名人ですから」と返される。いや、それはまぁそうなんだけど、名前はそうなんだけどさ。でも見た目でいうと、いまコーナーには俺と完全一致しているやつがあと五人はいる。何ならそこに転がってるやつらもほぼほぼ間違い探しみたいなもんだぞ?


「私、『ひゃくたん』です」

「ひゃくたんね。覚えとく」

「光栄です」


 そんな自己紹介を経て、だ。


「バトルは公式試合と同じ三ターン。ローカルルールはなし。Meetミート the MEATミート、ファイッ!」


 自然な流れでタキザワ氏が仕切り出す。

 なんか流されるままにバトルが始まってしまったが、仕方ない。

 

 彼女のバトルスタイルは一言で言えば、柔軟。高級肉でねじ伏せようとせず、臨機応変に安い肉も出して来る。一度『大館おおだてさくら豚』を出して来た時は「仕掛けて来たか?」と思ったが、その後すぐに『ウィンナー』と来たもんだ。


 一ターン目の彼女の罠カードは『食肉偽装』。一応警戒して地鶏やブランド豚を避けておいて良かった。『食肉偽装』のカードは輸入肉には効果がない。こいつが効くのは国産肉のみだ。こいつを使われるとデッキ内の国産肉の価値がすべて輸入肉レベルに落ちてしまうのである。


 ペら、とこっちの罠カードをめくる。出て来たのは『【カウベル】・【イシカリ】のジンギスカンのタレ』だ。『カウベル』と『イシカリ』というのは北海道の調味料メーカーだ。道民の間では、どちら派かで、きのこたけのこも真っ青な論争に発展するらしい。というわけで、デッキ内に『ジンギスカン』がある場合、このカードを使われるとその論争が勃発するため、攻撃力が半減するのだ。


「やりますね」


 デッキ内の『ジンギスカン(ラム)』を見て、彼女が苦笑する。


「まぁね。君もそこそこ」

「光栄です」


 

 それで――。


 ストレートで俺の勝利――とはならなかった。一ターン目はあっさりと勝ったものの、二ターン目は彼女に取られた。決して接待じゃない。全力でやって、そして負けたのだ。それで、三ターン目できっちりかたをつけた。


「参りました」

「いや、よくやったと思うよ」

「ありがとうございます」


 このやり取りにギャラリーがざわつく。

 俺が一ターン落としたことにではない。


「喪神殿が優しい言葉をかけたぞ」

「喪神殿といえば『雑魚』がキメ台詞だろ」

「喪神殿も所詮は男、か……」


 いやいやいやいや!

 だってこの子雑魚じゃないしね?!

 所詮も何も俺男だしな?!


 と、言い返したいのをぐっとこらえる。

 何だろ、相手がスーツだからか、ついつい最上リーマンモードになりかけているのかもしれない。


「あの、ミトコンウォリアさん」

「あ、何?」

「実は私、先週越してきたんです。異動で」

「あーそう」


 そうか、そういう時期か。ウチの会社もそうだもんな。ウチの課も何人か異動したし、週明け、入れ替わりに数人入って来る。そうか、道理で見ない顔なわけだ。


「なので、また対戦お願いします。これからも勉強させてください」

「期待してる」


 そう返すと、彼女に敗れた者共がワッと沸く。沸くな沸くな。


 とにもかくにも、一件落着である。


 ミトコン仲間にもそれはそれは感謝された。感謝もされたし尊敬もされた。スーツのお姉さん相手にも冷静にバトルが出来るとは、さすがは喪神殿、と。うん、まぁ、ウチの課、フツーにスーツの女性社員多いし。その辺は全然免疫あるから。


 一件落着、のはずだったのだ。

 週明けの朝礼で彼女の姿を見るまでは。


「本日より企画営業部でお世話になります、『百田ももた香子かおるこ』です。これからどうぞよろしくお願いいたします!」


 ひゃくた――ん!?


 まさかその『会社の人事異動』とやらが、まさかウチの会社の、まさにウチの課だとは!


 あっそうか! 『百田ももた』を『ひゃくた』読みしたわけね! 成る程成る程! 辞令見て名前は知ってたけども結びつかんて!


 だがしかし、問題はない!

 何せここでの俺は、HONUBEの俺とは全くの別人といっても過言ではない! まさか俺がミトコンウォリアとは思うまいて!


「最上課長、これからよろしくお願いいたします」


 ぺこりと頭を下げる彼女に、あくまでも仕事モードの『最上』で返す。


「期待してる」


 この笑みも『喪神』の方にはないやつだ。何せあの場での俺は冷酷で非情なミトコンバトラー・ミトコンウォリアなのだから!


「ご期待に添えられるよう、頑張ります」

「うむ。じゃ、百田君の席はあそこの――」


 と、席を指差そうとすると、すっ、と腰を落とし、口元に手を添えて「それで」と彼女が密やかな声で囁く。


「次はいつ対戦出来ますか、ミトコンウォリアさん」

「――んなっ!?」


 なぜバレた?! 動揺している俺に向かって彼女は言った。


「『期待してる』のトーンが同じです。大丈夫、誰にも言いません。これからよろしくお願いします、課長」


 この胸の高鳴りは、バレたという焦りからなのか、それとも――?!

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MEAT COMBAT!~シゴデキリーマンは週末カードバトラー~ 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa

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