『ドラゴンの嘆き』

やましん(テンパー)

『ドラゴンの嘆き』


 むかしむかし、人類界でのお話し。


 太郎ドラゴンさんは、いつも、孤独でした。


 鳥達からは、『きみは、とかげさんの仲間だ』と言われ、とかげさん達からは『あなたは、とりさんの一種だ』と言われ、人間達からは嫌われるか恐れられてしまうからです。


 居場所がないために、どうしても、高いお山の上の、誰も近寄らない洞窟辺りに住むしかないのです。


 性格が、やや、いじけてしまうのには、そこに理由がありました。


 でも、太郎ドラゴンさんは、基本的には、優しい性格で、争い事は嫌いだったのです。


 特に人間と関わると、戦争に利用されかねないから、もう長い間、人間とは付き合いがありません。



 そんな、ある日のことです。


 日本に住んでいる、弟の次郎龍がやってきて言いました。


 『にいさん、いまは、ビジネスの時代だよ。ぼくは、新しい観光ビジネスを始める。ぼくの背中に人間を乗せて、世界を旅して回るんだ。背中には、立派な食堂も作り、パソコンも使えるようにするんだ。にいさんも、コースに入れるから協力して欲しいんだ。お礼に、食糧などをあげよう。』


 『おいらは、なんにもしたくない。』


 『なにもしなくていいんだ。ただ、廻りから見るだけだから。』


 『そうか。なら、いいよ。』


 こうして、太郎ドラゴンさんは、人気者になりました。


 1番儲けたのは、もちろん、次郎龍さんでした。


 太郎ドラゴンさんは、食糧やお菓子、ファンレターなどを、たくさんもらいましたが、お金については、あまら知らなかったし、山にいては役に立ちませんから、もらいませんでした。


 しかし、人々の要求は次第に過激になります。


 『火を吹かないドラゴンは、ドラゴンではない。』


 との批判が出たのです。


 もちろん、太郎ドラゴンさんは、火を吹けますが、それは、大変なエネルギーと、危険性を伴うものでした。


 弟の次郎龍さんは、『一回だけでもやって見せて欲しい。』と、懇願したのです。


 というのも、だんだん、飽きられて、事業が成り立たなくなりそうだったからです。


 仕方なく、太郎ドラゴンさんは、一回だけという約束で、火を吹きました。


 『うわあ❗』


 人々は、びっくりしました。


 そうして、再び人気に火が付いたのです。


 『ドラゴンさんは、滅多に火を吹きません。ツアーに参加したら必ず見られるわけではありません。』


 次郎龍さんは、そう、広告しました。


 しかし、火を吹いた映像は、またたくまに、世界に広まりました。


 すると、超大国と大国の軍隊が、太郎ドラゴンさんの捕獲に乗り出しました。


 太郎ドラゴンさんは、仕方なく、火を吹いて戦いました。


 もう、観光どころではありません。


 ついに、超大国さんと大国さんの軍隊は、小型核爆弾を仕掛けてきました。


 それで、太郎ドラゴンさんは、お家を無くしたのです。


 怒った太郎ドラゴンさんは、やけっぱちになって、両方の首都を焼きました。


 それで、国民から批判され、選挙で負けて、やっと、両政府は捕獲作戦を諦めたのです。



 それ以来、太郎ドラゴンさんも、次郎龍さんも、いなくなりました。


 利益を得たものは、結果的には、誰も居なかったわけです。


 また、人類は、もはや、ドラゴンさんを見ることはなくなりましたが、戦争だけは、止めませんでしたとさ。


 いまでも、人類界では、戦争をやっていると、言われます。


 

   

     おしまい




      🙏


















 













 


 


  

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『ドラゴンの嘆き』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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