最後の最後に落ちこぼれ二人が笑うため!
雫 のん
第1話 努力の限界
努力すれば何でもできるなんてことはありえない。
努力そのものを称えられたり、努力によって自分自身がどれほど成長しようとも、結局才能ある者には到底届かないのだ。
そんな当たり前を母は分かってくれなかった。
「あの塵に似て本当に無能ね! 人間の平民なんかと一瞬でも関係を持ったのが間違いだったわ!」
「ごめんなさい! お母様ごめっ……!」
「私が求めてるのは謝罪じゃなくて成績でしょって何度言えば分かるの!?」
冷たい風が吹き荒れ、絶え間なく雪が降り続ける一月の夜、母は私の髪を鷲掴みにしてその体を荒々しく突き飛ばした。
「熱いっ……!」
指先に焼けるような熱を感じ、反射的にそこを見ると、そこはストーブの金属部分に触れて痛々しい赤色をしている。
火傷した指先を握りながら座り込む、そんな私を見下す愉快そうな母の表情から、ストーブのある方向へわざと突き飛ばされたんだと気がついた。
これまでも頬を打たれることや怒鳴りつけられること、一日食事を抜かれることはよくあったが、怪我をさせられたのはそれが初めてだった。
手を冷やそうと立ち上がると、室内でも尖ったハイヒールを履く母の脚が私のお腹を蹴り倒した。
十二歳の私が母親に力で叶うはずもなく、ただ痛みに耐えるしかなかった。
厳しい母に愛されようと一切遊ばす努力してきたこれまでの自分は何だったんだろう。
痛みと悲しみ、後悔で涙が止まらなかった。
私が泣くと母はもっと怒ると知っていたけど、予想外にこの日の母は何も言わず、無駄なもの一つない私の部屋から去って行った。
あれから三年と二ヶ月ちょっとして、私は高校生になった。
愛される努力をやめて叱られない努力をするようになってから、機嫌取りや話術ばかりが上手くなった私は、手を出される回数を極端に減らすことができた。
清楚な私服を身に纏って、真っ黒のスクールバッグを抱え、母の望み通りに受験して合格した私立の名門校の門をくぐる。
脇に立つ教員らしき人達に笑顔を向けて爽やかな挨拶をしながら、指示された教室へと向かった。
種族混合魔法学園メリアルズの一年三組。
肩書だけなら、この世界の同年代の誰と比べても上位に立てる。
そんな学園内で、卒業まで特待生枠を守った叔母と、成績上位者十パーセントで居続けた母と、せめて勉学だけでも肩を並べられるようにしなければ。
無能で出来損ないのままで終わらないために。
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