第10話 相良、一撃でノックアウトされる
「さ、相良っ!?」
驚いた俺は思わず名を呼ぶ。
――えっ? DGの相良?
――むっちゃ強いって有名な奴じゃん
――財務大臣やってる
――適性100の有能ダンジョンガーディアンで、一流大学出のイケメン。おじいちゃんは総理大臣もやった
コメント欄にある通り相良は有名だ。
動画を見ている人の中にも知っている人は多いようだった。
「へー、お前、俺のことを知っているのか? まあ俺もそれなりに有名人だからな。怪人野郎に知られていても不思議は無いか」
「ど、どうしてここに?」
「怪人が動画の配信をしてたら俺たちが来るのは当然だろ? 俺たちはダンジョンの治安を守るのが仕事なんだからな」
「……っ」
動画を見て場所を特定してここまで来たってことか。
「それじゃあ討伐させてもらおうか」
「あ……」
周囲から他のDGがぞろぞろと現れる。
――うおお! おっさんピンチ!
――なんでこんなことに……
――けどDGが怪人を倒しに来るって普通じゃね?
――えっ? でも本物の怪人じゃないんでしょ?
――DGが来たってことはやっぱり本物の怪人だったってこと?
――だったらなんで本物の怪人が怪人を倒すんだよ?
――まあこれでおっさんがいなくなってくれるならなんでもいいよ
俺が怪人なのか、S級が化けているだけなのかの議論でコメント欄が流れていく。中には俺が殺されてほしいというものもあった。
「ねえ隊長、あいつをあたしが捕まえたら今夜付き合ってくれる?」
ギャルっぽいDGの女がそう言うと、
「構わないぞ」
「ちょっと待って。あいつを捕まえて隊長と付き合うのはわたし」
眼鏡をかけた真面目そうなDGの女が対抗するようにそう言った。
「だったら2人まとめて相手してやるか」
「「さすが隊長っ!」」
喜色満面の笑顔で声を上げた女2人は、左右から相良の腕へと抱きついた。
「さあておとなしくしろよ怪人野郎。こっちは念を入れて10人だ。まあでも俺たちは正義の味方だからな。怪人にされた気の毒なお前をこの場で殺したりはしない。とりあえずは捕縛してやるぜ」
相良の言葉を聞き、女2人を含めた他のDGが俺へと距離を詰めてくる。
俺はなにも悪いことはしていないのだ。
なのでおとなしく捕まるわけにはいかない。
とは言え相手はDGだ。国の組織と戦うなんて、そんなことをすれば本当に犯罪者となってしまうのでは……。
「そいつには再生能力がある。だからちょっとくらい傷つけても平気だぜ」
「おっけー。それじゃあ串刺しにして捕まえてやるからね。隊長と夜のお付き合いをするために」
華奢な体躯には似合わない太めの槍を頭上で振り回しながらギャル女は言う。
あんなので刺されたら本当に串刺しに……。
「でやーっ!」
「うあーっ!?」
そして声を上げ、恐怖に悲鳴を上げた俺の腹部へ向かってギャル女は槍を突き出す。……が、
ガキィン!
「へ?」
「へ?」
まるで鉄の塊を突いたかのように槍は弾かれ、ギャル女は背後にたたらを踏んだようによろける。
「か、かた……っ」
「お、おーっ! これくらいなんでもないぞっ!」
俺は槍の先端を掴んでギャル女を引き寄せると、
ゴン!
「あう……っ」
頭頂部へ拳を落とす。
そのままギャル女は地面へ突っ伏した。
――相手が女でも容赦ないな
――男女平等パンチや
ここは戦場だぜ。
男も女も関係ねぇ。
……って、言おうと思ったが、あれは悪役のセリフなのでやめておいた。
「不用意に近づくから」
そう言ってもうひとりの委員長風な眼鏡女が二丁拳銃を構える。
「この拳銃にはオリハルコンから作られた銃弾が入っているの。どんなに頑丈な身体でも穴だらけになる」
と、そう言った女の拳銃から銃弾が発射される。……が、
キィン!
肩へと当たった銃弾はさっきの槍と同じく弾かれた。
「なっ!? そんな馬鹿なっ! このっ!」
2丁の拳銃から連射される銃弾が俺の身体へ当たって弾かれる。
銃弾へ当たりつつのっそりと動いて足元の石ころを拾った俺は、じっくりと狙いを定めて……。
「あぐぁ!?」
それを女の額へと投げて当てた。
そのまま女は仰向けに倒れる。
軽く投げたので死んではいないだろう。
――男女平等投擲w
――戦場じゃ男も女も関係ねーんだよ
――痛そうなのはヌける
なんか知らんけど、コメント欄は盛り上がっていた。
「ちっ、役に立たない女どもだ。おい。頑丈さだけはご立派なようだからな。一斉に飛び掛かって捕獲しちまえ」
「はいっ!」
相良に命令された5人のDGたちが一斉に飛び掛かって来る。
そして俺の両手足と首をがっしりと掴んだ。
「捕獲っ!」
ひとりがそう叫ぶ。
「くっくっくっ、それじゃあそいつを連れてこっちへ来い」
「はい。う、ぐ……」
全員が俺を相良のほうへ連れて行こうとする。
しかし俺はピクリとも動かない。その場に根を張ったように、まったくの不動であった。
「こ、こいつ……この、うご……うわあっ!?」
俺は両腕を振り回し、腕を掴んでいるDGの2人を投げ飛ばして岩壁に叩きつけた。
「がはっ!?」
「ぐはっ!?」
今度は足にしがみついている2人を自由になった両手で持ち上げて投げ、離れてこちらへ武器を向けている他の2人にぶつけてやる。
最後に首を掴んでいる奴の頭を掴み、
「うごあっ!?」
顔面へ頭突きを食らわせてやった。
そしてこの場に立っているのは俺と相良だけとなる。
――うおつよ!
――ちっ
――おいおいDGが子ども扱いやん
「どいつもこいつも役立たずだな。しょうがない俺がやるか」
そう言って相良は背中に背負っている刀身の黒い刀を抜く。
「こいつは強力な魔物も一撃で真っ二つにできるほどの名刀だ。いくらお前が頑丈でも、こいつに斬られればただじゃ済まないぜ」
――えっ? あれって黒刀か?
――マジかよ!
――超レアな鉱石から作られるっていうあれか
――鉄の塊も一撃でぶった斬れる剣だぞこれ!
――世界でも10人くらいしか持ってないって聞いたことある
――やべえおっさん死んだわ
――おっさんを殺せー!
――登場2回目にして死去か
黒刀。
ダンジョンに縁が無かった俺でも知っている超レアな鉱石から作られる強力な武器だ。あんなもので斬られたらいくら頑丈な身体でも本当に真っ二つにされる。
「ほ、捕獲が目的じゃなかったのか?」
「ブラックドラゴンの怪人なら、死なない限りいくら傷つけても大丈夫だろ」
「なに?」
なんでこいつが俺をブラックドラゴンの改造人間だと知っているんだ? 動画では明言していないはずだが。まあ、雄太郎さんのような知識があればわからなくもないか。もしくは仮面ドラゴンブラックという安直な名前から推察しただけかも。
「おらっ! まずは腕を斬り落としてやるっ!」
黒刀を振り上げた相良が目にも止まらない速さで襲い掛かって来る。
そして一瞬で距離を詰められ、
「ぐわあっ!」
腕を斬られると思った俺は先行で叫ぶが……。
「な、なにぃっ!?」
「ええっ!?」
真っ二つになったのは俺の腕を斬った黒刀のほうだった。
――うわあ!? 黒刀のほうが折れた!?
――うおおっ! マジか!?
――黒刀のほうが折れたぞ!?
――ありえねー! なんだこのおっさん!?
――ぐわぁって言ったのなんだったんだよw
――黒刀を折ったおっさんも驚いてて草
俺もびっくりだ。
頑丈なのはわかっていたが、まさかここまでとは……。
「こ、こんな馬鹿なぁっ! 黒刀だぞこれっ! 折れるなんてあり得ないっ!」
「でも実際に折れてるし……」
「な、なにかの間違い……うごぉ!?」
喚き散らす相良の腹に拳を沈み込ませる。
そのまま膝をつき、地面へと倒れた。
――DG倒しちゃったよ
――これどうなんの? 犯罪者?
――けどなにもしてないおっさんに襲い掛かったのDGじゃん
――でもおっさん怪人だし
――いや、もしかして過去になにかやった可能性も
――S級以上の探索者が怪人の振りしてるんじゃないのか? もうわからん
「う、うーん……」
倒してしまったが、こいつはダンジョンの治安を守る公務員だ。
この場合は俺が悪人ってことになるのでは……。
この状況をどうしたらいいのかわからず、俺は立ち尽くす。
「仮面ドラゴンブラックさーん。お待たせ―」
「あっ」
と、そこへシルバーライトの格好で焔ちゃんがやって来る。
――シルバーライトちゃんキター
――待ってた
――キタキター!
焔ちゃんが来たことでコメント欄は大盛り上がりだ。
俺も焔ちゃんが来てくれてホッとした気分であった。
「シ、シルバーライトちゃん。ごめん、なんか大変なことになっちゃってて」
「配信見てたから知ってるよ。でもこれはDGが悪いよ。仮面ドラゴンブラックさんはなにも悪いことしてないし」
「そ、それはそうなんだけど……」
しかし外見は完全に改造人間だし、悪いことはしていなくてもデッツの怪人として扱われてしまう……。
――シルバーライトちゃん、おっさんは怪人なの?
――S級以上の探索者が怪人の振りをしてるんでしょ?
焔ちゃんが来た途端、コメント欄から質問が飛ぶ。
答えるのが難しい質問だ。
俺もどう答えたらいいやら……。
「仮面ドラゴンブラックさんはデッツの怪人でも探索者でもないよ。すごく正義感の強い人で、デッツのアジトを潰すために潜入したの。けど捕まっちゃってね。改造手術をされて仮面ドラゴンブラックになったってこと。あ、でも洗脳される前に逃げ出したからね。怪人じゃないよ。今はデッツと戦う正義のヒーローなんだから」
そう言って焔ちゃんはドローンカメラに向かって親指を立てて見せた。
――そうだったのかー
――改造人間だけどデッツの怪人では無いってことね
――いやでも、改造人間って怪人じゃね?
――洗脳されてなきゃただの改造人間だろ。むしろ被害者
――おじさん、犯罪者なんて言ってごめんね
――じゃあDGの早とちりか
――おっさん、DG訴えたら?
――ちょっと待て騙されるな。このおっさんは悪だ。俺は騙されない
――シルバーライトちゃんは嘘吐かない
――俺はシルバーライトちゃんを信じるぜ
――おっさんはともかく、シルバーライトちゃんは信じる
……さすがは超人気アイドル件、超人気配信者だ。
俺が窮していた質問をいとも容易く答えて納得させてしまった。
「じゃあわたしも来たし、これからダンジョンの治安を守るために出発しまーす。さあ、仮面ドラゴンブラックさんも行くよー」
「は、はーい」
紆余曲折はあったが、予定通り焔ちゃんと合流して配信は続いた。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
相良、余裕の登場。
相良、一撃でのされて退場。
これを全世界に向けて配信されてしまうという格好悪いことに……。
1000PV突破しました。
次は10000PV目指します。よろしくお願いいたします。
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
次回は掲示板回です。やはりおっさんについては賛否両論な模様。そして新たな事件の匂いも……。
次の更新予定
ダンジョンで悪の組織に改造手術をされてしまったドルオタのおっさん。最強となって推しのアイドルとともに正義のヒーローをやることになってしまう 渡 歩駆 @schezo9987
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ダンジョンで悪の組織に改造手術をされてしまったドルオタのおっさん。最強となって推しのアイドルとともに正義のヒーローをやることになってしまうの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます