第8話 デッツと仲良しなDGの相良

 ―――デッツ幹部ゼラムス視点―――



 ――ダンジョンの奥深くにあるデッツの本拠地。

 そこにある一室に、デッツの幹部たちが集まっていた。


 集まった理由はカニギラスに進めさせていた、人気アイドルを使って人間たちを洗脳するという計画の途中で起きたアクシデントについてである。


「一体どうなっているんだゼラムスよ?」


 俺は黒鎧の男にそう問われる。


 筆頭幹部のギューイザル。

 それがこの男の名だ。


「はい。どうやら実験体……名は零乃甚助という男がブラックドラゴンの遺伝子に適合したようで、カニギラスはその男に殺されました」

「ブラックドラゴンの遺伝子にだと? そんなことがあり得るのか? 今まで何千人と実験をしてきて成功は一度もなかったというのに……」

「カニギラスの攻撃を一切、受け付けない頑丈な身体。そして口から吐き出される業火のような炎。あれはブラックドラゴンの特性です」

「しかしなぜ洗脳されていない?」

「実験を担当していた者らが洗脳を施そうとしたところを、銀灯焔が扮するシルバーライトに気絶させられたとのことです」


 それさえなければ今ごろは強力な改造人間を手に入れることができていた。

 あんな小娘にそれを邪魔されたとは、まったく不愉快であった。


「ううむ。この事態は偉大なる我らがボス、デッツ大帝様も憂慮しておられる」

「承知しております。カニギラスを難なく倒せるあの男は我らにとって脅威にしかなりません。しかし捕らえて洗脳を施せば我らデッツの強力な兵士になります」

「できるのか?」

「お任せください」


 あれを手に入れて自分の配下とすれば強力な武器となる。

 筆頭幹部の座もいずれは俺のものに……。


「……くくくっ」


 と、そのとき幹部のひとりが含んだように笑う。


「なにがおかしい? グイドリッジ」


 女幹部グイドリッジ。

 顔の半分を隠す黒い仮面を被り、胸の部分が大きく開いた黒いドレスを着ているはしたない女だ。


「改造はしたのに、洗脳をしないで逃がしてしまうなんて言うお馬鹿なミスを犯すような部下を持つゼラムスさんに、名誉の挽回なんてできるのかねぇ? 失敗を重ねて恥の上塗りにならなければよろしいけど」

「なんだと? 貴様……っ」

「くだらない争いはやめろ」


 グイドリッジを睨んで立ち上がるも、ギューイザルに止められる。


「とにかく逃げた改造人間の捕獲はお前に任せる。頼んだぞ」

「はっ」


 返事をした俺は部屋を出て行く。


 しかし捕獲と言っても簡単ではない。

 ただの改造人間では、ブラックドラゴンの遺伝子を持つあれの捕縛は難しい。


 どうしたものか……。


「よお、ゼラムスさんよ」

「ん? お前は……」


 通路の壁に寄りかかっている男が声をかけてくる。

 その右には馬鹿そうな女、一条紗香いちじょうさやかがおり、左には小賢しそうな女、間射都香はざまいつかが立っていた。


「相良か」


 ダンジョンガーディアンの相良秀。

 本来DGはデッツの敵であるが、この男みたいに金で懇意にしている者もいる。


「せっかく俺が協力して誘拐をやりやすくしてやったってのに、あんたの計画は失敗しちまったみたいだな」

「ああ。しかし大きな拾い物ができそうだ」

「シルバーライトの動画に出てた黒トカゲの改造人間か?」

「あれは黒トカゲの改造人間じゃない。ブラックドラゴンだ」

「ブ、ブラックドラゴン? マジかよ?」

「ああ。あれを手に入れることができれば、デッツでの立場が上がる」

「ふーん。しかしブラックドラゴンの改造人間となれば捕獲は簡単じゃないぜ?」

「わかってる。なにか方法を考えているところだ」

「だったら俺が捕獲して来てやろうか?」

「なに?」

「その代わり報酬はたんまりだ。前回の5倍は払ってもらうぜ」

「ううむ……」


 ブラックドラゴンの改造人間が手に入るならば5倍の報酬なんて安いもの。

 成功するかはわからないが、任せてみても損は無いか。


「わかった。あれを捕獲できるなら10倍は払ってもいい。頼んだぞ」

「へへ、10倍か。こりゃあやる気が出るな。任せときな。明日にでもあの野郎をあんたの前に連れてきてやるぜ」


 そう言って相良は女2人を連れて歩き去って行った。



 ―――零乃甚助視点―――



 朝、目が覚めると知らない天井が見えてドキリとするが、そういえば昨日から雄太郎さんの家で世話になっていたことを思い出して落ち着きを取り戻す。


「おはようございます」


 部屋を出て1階へ行き、雄太郎さんへあいさつをする。


「やあおはよう。よく眠れたかの?」

「ええ」


 うちにあるのよりも高級なベッドでぐっすり眠れた。


「すいません。居候なのにあんな良い部屋を貸してもらっちゃって」

「なに、滅多に使わない来客用の部屋じゃ。遠慮なく使うといい。それよりも一旦、自宅に帰って必要なものを取って来たらどうじゃ? 放っておいてはそのうち片付けられてしまうかもしれんぞ」

「あ、そ、そうですね。そうします」


 しばらくここでお世話になるなら服とか持って来たほうがいい。今着ている服は雄太郎さんに借りたが、かなりぶかぶかだった。


 しかし俺は死んだことになっているのだ。

 職場が移動したことで引っ越しをしたが、まだ荷物の受け取りもやっていない。死んだことになっているのに引っ越しの荷物を受け取れるだろうか?


 そんな心配に頭を悩ませていると……。


「うん?」


 雄太郎さんが見ているテレビのニュースが目に入る。

 内容はデッツによる誘拐事件についてだ。


「おや、あれはダンジョン管理庁の長官じゃな」

「ええ」


 番組のスタジオにはダンジョン管理庁の長官である、千々岩仙石ちぢいわせんごくが出ていた。


 DGはダンジョン管理庁の傘下組織であり、この人はDGのトップでもある。


「千々岩さん、今回の事件ですが、解決には動画配信者のシルバーライトという人物が大きく貢献いたしました。これについてどう思われますか?」

「大変に遺憾ですね。デッツは多くの人質を取っていたのです。結果的に捕まっていたアイドルたちは解放されて解決には至りましたが、下手をすれば全員が殺されていた可能性もありました。一般の方がああいうことをされるのは、ダンジョンを管理する我々にとって本当に怖いですね。承認欲求というのでしょうか。目立ちたいという欲望に駆られた者の暴走と私は考えています」


 シルバーライトに対して非常に厳しい言いようだ。


 しかしまあこの人の立場を考えればわからなくもない。結果的に解決には至ったが、最悪の事態になった可能性だって無くは無いのだ。


「なるほど。世間ではDGの対応が遅いという声も聞かれますが」

「どんな事件でも慎重に対応しております。今回の事件も攫われた方たちの安全を最優先に考え、慎重に捜査を進めて来ました」

「アイドルのホムラさんが攫われた件について、DGが警備をしていたにも関わらずデッツに誘拐をされてしまいました。この件に関して批判もありますが」

「あれは警備会社の不手際ですね。特にステージへ上がって怪人に向かって行った警備員です。彼が怪人を刺激したせいでホムラさんに命の危険が及びました。それゆえにDGは怪人を捕らえることができずに逃がすこととなったわけです」


 なんか俺のせいになってるし……。


 と言うか、DGが来る様子なんてまったく無かった。

 そもそもDGがしっかり警護をしていれば、怪人が焔ちゃんに近づくこともなかったのではと思う。


「最後に、シルバーライトとともにいた黒いトカゲのような怪人についてですが、あれについて千々岩さんはどう思われますか?」

「現場のDGはシルバーライトから動画の演出と聞いたようです。ですが、迷惑な配信者の言っていることなので事実かはわかりませんね。デッツの怪人であるならば、早急に逮捕拘束か、抵抗するようならば殺害も考えております」

「ありがとうございました。今回はダンジョン管理庁長官の千々岩仙石さんにゲストとしてお越しいただきました」


 そこで番組はCMへと入った。


「ダンジョン管理庁はデッツの怪人だと疑っているようじゃな」

「まあ、デッツに改造されたのは事実ですしね……」


 言い訳は難しい……。


「おはよー」


 と、そのとき階段のほうからかわいらしい元気な声が聞こえてくる。


 焔ちゃんだ。

 昨日は遅かったので、焔ちゃんもここへ泊まっていたのだ。


 焔ちゃんとひとつ屋根の下で一晩過ごしてしまった……。

 こんな嬉しい状況じゃ興奮して眠れないよと思ったが、疲れていたので意外にもベッドへ入ってすぐにぐっすりであった。


「あ、おはよう焔ちゃん」

「うん。それじゃあ、準備ができたら出発だからね」

「えっ? 出発ってどこに?」

「決まってるでしょ? ダンジョンの平和を守りに行くの」

「で、でも俺。今日は自分の荷物とか取りに行きたいし……」

「そんなの明日でもいいでしょ? 今日の10時から配信予定にしてるんだから、急いで準備してよね」

「あ、う、うん」


 焔ちゃんに言われたらうんと言うしかない。

 だって焔ちゃんだよ? 焔ちゃんに死ねと言われたら死ぬのが真のファンだ。焔ちゃんに逆らうなんてあり得ない。


「焔、お前、アイドルの仕事もあるじゃろう? と言うか、誘拐されてから事務所とかマネージャーさんに連絡はしたのかの?」

「あ、昨日のことで興奮し過ぎて忘れてたっ!」

「まったく、心配しておるじゃろうからすぐに連絡しなさい」

「はーい。あ、会場から攫われたからスマホはあそこに置きっぱなしかぁ。このサブのやつは小さくて使い難いんだよね」


 と、ぶつぶつ言いながら焔ちゃんはスマホで電話をかけ始める。


 クールビューティなアイドルホムラとはまた違う、普通の明るい女子高生な焔ちゃんもかわいらしくて素敵だ。


「えーっ!」


 電話をしている焔ちゃんが声を上げる。


「……はい。はーい。わかりました」


 なにやら不貞腐れるように言って、焔ちゃんは通話を切った。


「どうかしたのかの?」

「これから事務所に顔を出せって。配信があるのにさー」

「それはしかたないじゃろ。無事な姿を確認したいじゃろうし、ファンに無事な姿を見せる必要もあるじゃろうしのう」

「それはそうかもだけど、10時からの配信どうしよう? もう予定を告知しちゃってるし……あ、そうだ」


 なにか思いついたのか、焔ちゃんは俺を見た。


「甚助さんさ、先にダンジョンへ行って配信を始めててくれない?」

「えっ?」

「わたしも適当に言って事務所を抜け出して行くからさ。それまで繋いでおいてよ。みんな甚助さんのこと気になってるみたいだからさ。コメント見て質問に答えるだけでいいよ。SNSでそう告知しておくから。んで、わたしが合流したらダンジョンを回ろう」

「い、いやでも……」


 俺ひとりで動画の配信なんて……。


「あ、まだちゃんと変身できるかもわからないし不安だよね。魔物とかに襲われたら大変だし。じゃあこれあげるね」


 と、焔ちゃんから蚊取り線香の入れ物みたいのをもらう。


「これで魔物除けのお香を焚けば弱い魔物は向こうから離れるから」

「へーこんな便利なものが……あ、いや、不安なのはそれだけじゃ……」

「じゃあお願いね。わたしシャワー浴びてくるから」

「シャ、シャワーっ!」


 同じ家の中で焔ちゃんがシャワーを浴びる……。と言うことは、仕切りがあるとは言え、生まれたままの焔ちゃんがすぐ側にいるということだ。


「むはーっ!」


 それを考えた俺は他の考えがすべて吹っ飛んでしまう。


 もうダメだ。

 興奮してなにも考えられない。


「大丈夫? とにかくお願いね。配信のやり方はあとで教えるから」

「は、はーい」


 パタパタと小走りに焔ちゃんは浴室へ向かう。


 このあとはシャワーを浴び終わった焔ちゃんを見れる。


 俺はわくわくしながら、焔ちゃんが出てくるのを待つことにした。


「焔が浴び終わったら、君もシャワーを浴びるといい」

「ほ、焔ちゃんのあとにですかっ!?」

「そうじゃが? まあ面倒なら別によいが……」

「いえぜひっ! ぜひ浴びさせてくださいっ!」

「う、うん」


 焔ちゃんが裸でいた場所に行って俺も裸になる。


 そんなの大興奮待ったなしですよ。


 地下東京に来る前は不安いっぱいだったが、まさかこんな良い目にあえるとは。

 生きててよかった。


 しかし運を使い過ぎて不幸な目に遭うんじゃないかという不安もちょっとある。

 ひとりで配信やれってのも不幸みたいなもんだし……。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 相良はボコられる(確信)


 ☆、フォロー、応援、感想をありがとうございます。執筆の活力にさせていただいております。引き続き、いただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。


 次回はひとりで配信をする甚助

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