第6話 バイクはホン〇がいい焔ちゃん

「お、俺も正義の味方系配信者って……どういうこと?」

「言葉通りだよ。わたしと一緒にダンジョンの平和を守るヒーローになるの」

「ええっ!?」


 なんでそんなことに……。


「いやあのその、俺、そういう目立つ活動は苦手なんだけど……」

「変身した姿なら大丈夫でしょ。素顔もわからないし」

「いや変身って……」


 変身と言うより、魔物化に近いと思う。


「あ、変身後の名前が必要だよね」

「変身後の名前?」

「うん。ヒーローには格好良い名前が必要なの。うーん、なにがいいかなー……」


 焔ちゃんは腕を組んでうんうんと考える。


 俺としてはヒーローというより、あの姿はトカゲの怪物なのだが。


「よし決めたっ! 仮面ドラゴンブラックっ!」


 ……考えた割には安直であった。


「あとは変身のしかただね。変身のしかたが完全に怪人のそれだし、もっとヒーローらしく格好良いものにならないかな?」

「そう言われても、俺がどうにかできるものでもないし」

「うーん……。おじいちゃん、なんとかならない?」

「変化……いや、変身に必要なエネルギーを自在にコントロールすることができれば、もう少しなんとかなるかもしれんのう」

「じゃあそれができる機械を作って」

「わかった。やってみよう」


 なんか俺の承諾を得ずにどんどん話が進んでしまっている。


 しかしヒーローか。

 そういったものに興味がないわけではなかった。


「あとはバイクだね」

「えっ? バイク?」

「そう。仮面を被ったヒーローにはバイクが必要なの」


 焔ちゃんは目を輝かせながらそう語る。


 バイクに乗った仮面のヒーローって……。

 この子、若いのにヒーローのイメージが古いな。


「でも俺、バイクになんか乗れないよ。免許も車のしか持ってないし」

「ヒーローに免許はいらないの」

「いや、いると思うけど……」


 正義を守るヒーローが無免許で逮捕なんてギャグである。


「そもそも死んだことになってるんだし、免許も無効じゃない?」

「それはまあそうだけど……」


 運転する技術が無いので、乗れないことには変わりない。


「ふむ。バイクか。ならちょっとついて来なさい」

「えっ? あ、はい」


 ソファーから立ち上がった雄太郎さんに俺たちはついて行く。

 やって来たのはガレージだ。


「ほれ、たまに買い物で乗っ取る電動スクーターじゃ。こいつは出力の低いやつじゃから、少し練習すれば乗ることができるじゃろう」

「あ、そうですね」


 乗ったことはないけど、練習すれば乗れると思う。


「ねえ焔ちゃん、バイクはこれで……えっ?」


 なんか焔ちゃんは俯いてプルプル震えている。


 どうしたのだろうと俺が声をかけようとすると、


「……ガッデーム」

「ガ、ガッデム?」


 なにガッデムって?


 謎の英語を呟いた焔ちゃんが電動スクーターを指差す。


「ちーがーうーだーろーっ! このハゲ―っ! 電動スクーターに乗ってやって来るヒーローなんているわけないだろっ! しかもこれヤマ〇じゃんっ! せめてホン〇持ってこいよこのハゲっ!」

「え、ええ……」


 クールビューティなスーパーアイドルホムラちゃんの豹変ぶりに俺は腰を抜かす。

 しかし雄太郎さん平然とした様子で頭をポリポリと掻いていた。


「しかたないじゃろう。これ以外にバイクは無いんじゃ。それに昔は原付バイクに乗ったヒーローだっておった」


 雄太郎さんが言ってるのはなんかすごい古い特撮のヒーローだろう。

 原付に乗ったヒーローなんて俺の記憶にも無い。


「とにかくこんな電動スクーターなんてダメーっ! ヒーローは最高時速1000キロは出る超高性能大型バイクに乗らないとダメなのーっ!」

「いや、そんなのあっても俺、乗れないし……」


 悪と戦う前に事故って死亡である。


「今はこれしかないから、とりあえずはこれで我慢しなさい。性能ならわしが少し改造してマシにはしておくから」

「むう……」


 一応は納得したようだが、顔は思い切り不満そうだった。


「まあバイクは我慢するしかないとして、変身する機械はちゃんとしたの作ってよね」

「わかったわかった」

「うん。じゃあ甚助さん、明日からの打ち合わせをしようか」

「えっ? 打ち合わせって?」

「決まってるでしょ? 動画配信の打ち合わせ。ああ、明日からが楽しみー。ヒーローを救う新ヒーロー登場なんて、めっちゃ熱い展開だったし」


 焔ちゃんは目をキラキラさせながら遠くを見つめる。


「あの、変わった子ですね。焔ちゃんって」

「うむ。こう見えて超がつくほどのヒーローオタクでのう。危険だからやめておけというのも聞かずにダンジョンでヒーローをやろうとするから、安全のためにわしがいろいろ作って持たせてやったんじゃ。しかし装備品なんかを作ってやったら、ますますやる気になってしまってのう。困っていたところじゃ」

「そ、そうだったんですか」


 確かにおじいさんとしては孫娘が犯罪者と戦うなんて不安でしかないだろう。今日だって、もしかしたら死んでいたかもしれないんだし。


「だから君が側にいて守ってくれるとわしも安心じゃ。君には迷惑かもしれんが、焔が飽きるまで付き合ってやってはくれんかのう」

「そ、それはもちろんです。俺も焔ちゃんのことは心配ですし、ぜひそうしたいです。任せてください」


 雄太郎さんも焔ちゃんが心配だろうけど、俺だって心配だ。自分の得た力にはまだ不安があるも、焔ちゃんを守る力になれたらと強く思う。


「そう言ってもらえると嬉しいよ」

「はい。それに俺もヒーローってものには憧れがありました。微力ながら人助けの力になれたらと思います」


 かつては弱くて人を助けることが怖かった。

 だが今は違う。強い力がある。この力で大勢を助けられたらと思う。


 正義のヒーローみたいに。


「それじゃあ甚助さん、2人っきりで打ち合わせをしましょうか」

「えっ? ふ、2人っきり? そ、それはまずいんじゃ……」

「どうして?」

「ど、どうしてって……」


 俺が大好きなスーパーアイドルホムラちゃんと2人きりでなんて……。


 めっちゃ嬉しい。けどそれはファンとしての一線を越えている。いやでもめっちゃ嬉しい。しかしファンとしての一線は……。


「もう、いいから早く来て」

「わおっ!?」


 焔ちゃんが俺の腕を抱いて引っ張る。

 その腕がたわわなお胸に触れてしまった俺は、歓喜の雄叫びを上げた。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 ヒーローが乗るバイクはホン〇。

 いいじゃないかヤマ〇だって……。


 ☆、フォロー応援、感想をありがとうございます。

 執筆の励みにぜひぜひたくさんいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回は掲示板回です。おっさんについては賛否両論な模様。

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