第5話 鉄腕のロボットに出てきそうなおじいちゃん

 なるべく人目が少ないところを通って、ようやくおじいさんの家に着く。


 おじいさんに聞けば元へ戻る方法がわかるだろうか?

 わからなければ一生、毛布を被って外出する生活になってしまう……。


 ピンポーン


 ホムラちゃんこと、焔ちゃんがインターホンを押す。


「おじいちゃんわたしー。来たよー」

「はーい。今出るから待っとれ」


 焔ちゃんのおじいさんってどんな人なんだろう?

 博士って言うと鉄腕なロボットに出てくる白髪の博士を思い浮かべるが、まさかあんなステレオタイプではないだろう。


 まったく博士らしくない普通のおじいさんが出てきたりして。


 そんなことを考えながら玄関先で待っていると、


「おお、よく来たよく来た。さあ、入りなさい」


 いかにもなステレオタイプの博士が出て来て驚く。

 まるで鉄腕のロボットに出てくる白髪の博士そのものだった。


 俺と焔ちゃんは博士の家に入ってとりあえずソファーへと座る。


「こちら零乃甚助さん。わたしを助けてくれたの」

「うむ。動画の配信は見ておった。わしはこの子の祖父の銀灯雄太郎ぎんとうゆうたろうじゃ。孫を助けてくれて礼を言うよ。ありがとう」

「いえ、自分も焔さんを助けたかったですし……あ、それよりも」

「わかっておる。毛布を取ってみなさい」

「あ、はい」


 俺は被っている毛布を取り去り、怪人となった自分の姿を晒す。


「ふぅむ」


 その姿を雄太郎さんは興味深そうに眺めてくる。


「甚助さん、元に戻れなくて困ってるの。戻れるのかな?」

「人間に魔物の遺伝子を組み込んで作られた、所謂、怪人と呼ばれる改造人間についてはわしも研究をしておる。元へ戻るには、とにかく気持ちを落ち着けることじゃ。気持ちを落ち着けて心臓の動きをおとなしくさせるんじゃ」

「心臓の動きをおとなしく?」

「君はまだ戦いの興奮が冷めていないのじゃろう。その興奮を収めれば、身体は元へ戻るはずじゃ」

「は、はい」


 言われてみれば俺はまだ戦いの熱で興奮をしている。

 この気持ちを落ち着ければ……。


「あっ!?」


 焔ちゃんが俺を見て驚いたような声を上げる。


 俺の身体が少しずつ元へ戻っていく、

 やがて身体は元の通りとなり、鱗だらけの姿ではなくなった。


「も、元に戻った」


 よかった。


 安堵の心地で焔ちゃんを見ると、なぜか両手で顔を覆っていた。


「えっ? どうしたの焔ちゃん?」

「じ、甚助さん……裸」

「裸って……うわあっ!?」


 見下ろすとそこにはパンツ1枚すら穿いていない俺の裸体が……。

 どうやら身体が変化した際に服も破れてしまったようだ。


「じ、甚助さん、とりあえず毛布っ」

「あ、う、うん」


 俺は慌てて身体を毛布でくるんだ。


「ありがとうございます。元に戻れました」


 これで仕事もできるし、日常生活も送ることができる。


「うむ。しかし戦いの興奮に身体が熱くなれば、ふたたびさっきの姿になるじゃろう。気を付けることじゃな」

「は、はい」

「ねえおじいちゃん、甚助さんの身体はどうなっちゃったの? あの変なカニの怪人は黒トカゲの遺伝子を注入した怪人とか言ってたけど、黒トカゲって炎を吐いたりしないよね? それになんかものすごく頑丈みたいだし……」


 それは俺も気になる。

 黒トカゲはものすごく弱い魔物として有名だ。そんな魔物の遺伝子を注入されたにしては強過ぎるような気がしていた。


「うむ。詳しく調べてみないことには正確なことは言えんが、恐らく甚助君に注入された魔物の遺伝子は黒トカゲのものではない」

「えっ? じゃあ一体……」

「恐らくブラックドラゴンの遺伝子じゃろう」

「「ブ、ブブブブブラックドラゴンっ!?」」


 俺と焔ちゃんが同時に驚きの声を上げる。


「そうじゃ。デビルクラブの遺伝子を持つ怪人の攻撃をものともしない異様に頑丈な黒い鱗の肌。そして業火を吐く能力。これはブラックドラゴンの特性そのものじゃ」

「で、でもおじいちゃん、ブラックドラゴンってダンジョンの奥底に生息してるって言う、最上級クラスの魔物だよ? 強力な魔物ほど、遺伝子を適合させて改造人間を作るのは難しいって、前に言ってたじゃない?」

「うむ。通常、魔物の遺伝子を人間に注入すると、瘴気への抵抗力、つまりダンジョンで活動できる適性が邪魔をしてうまく魔物の遺伝子が身体に浸透しない。しかしその適性がうまく抑え込まれて魔物の遺伝子が身体に浸透すれば、改造人間となるわけじゃな」

「じゃあ俺の身体もそうなったわけですか?」

「そうじゃが、しかし強い魔物ほど遺伝子も強力での。人間の持つダンジョンの適性に強い拒否反応を示して身体を破壊してしまうんじゃ。しかしどういうわけか君の身体ではその強い拒否反応が起きず、ブラックドラゴンの遺伝子を身体に浸透させることができたようじゃな」

「あ、それって甚助さんは適性がゼロだからじゃ……」

「ほう、君はダンジョン適性がゼロなのかね?」

「ええまあ……」


 適性がゼロ。

 それを聞いた雄太郎さんは興味深そうに俺を眺めた。


「適性がゼロなゆえ、拒否反応はまったく出なかった。とは言え、強力なブラックドラゴンの遺伝子に自分の遺伝子を完全に破壊されて魔物化する可能性もあったじゃろう。運がよかったの」

「そ、そうだったんですか……」


 下手をすれば俺は今ごろ魔物だったのか……。

 そう考えるとゾッとした。


「それで甚助君、君はこれからどうするんじゃ?」

「えっ? あ、はい。家に帰って明日の仕事の準備でもしようかと」

「君は死んだことになっておるぞ」

「ええっ!?」


 なんでそんなことに……いや、コンサート会場であのカニ怪人に腹を貫かれて大量に出血したんだ。本来なら死んでいても……。


「ニュースの報道ではそう言っておったな」

「そ、そんな……」


 なら会社でも死んだことになっているだろう。

 報道までされて実は生きてましたなんて、そう簡単に出て行けるわけもない。なぜかすぐに治った身体の傷のこととか聞かれて面倒なことになりそうだし……。


「あ、そういえば、あのときにやられた腹の傷が跡形もなく治ってるんですが、これって……」

「傷を負ってもすぐに再生するというブラックドラゴンの特性じゃろう。あれは失った血液すら、再生することができるからのう。君の身体に適合した瞬間から、再生が始まって失った血液も元に戻ったのじゃろうな」

「な、なるほど」


 頑丈な上に怪我を負ってもすぐに再生してしまう。そしてあんな強力な炎を使う。

 ダンジョンでそんな恐ろしい魔物と出会ったら絶望はするのは間違い無い。


「けど、俺これからどうしたら……」


 死んだことになってるんじゃ家にも帰れない。

 仕事も失い、もはやホームレスであった。


「行くところが無いなら、しばらくここにいるとよい」

「えっ? よろしいんですか?」

「うむ。焔の命を救ってくれた礼もあるからのう」

「あ、ありがとうございますっ」


 これでとりあえずの住む場所はなんとかなった。


「よかったね甚助さん」

「うん。あとは新しい仕事を……」

「明日からはわたしと一緒に正義の味方系配信者だよ」

「えっ?」


 俺も正義の味方系配信者?


 それを聞いた俺はニコニコ顔の焔ちゃんを前にきょとんとした。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 これは焔ちゃんとのラブストーリーが始まる予感……。


 ☆、フォロー、応援、感想をありがとうございます。

 いただけると執筆の活力になりますので、ぜひぜひよろしくお願いいたします。


 次回は焔ちゃん、おじいちゃんにブチ切れ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る