第3話 シルバーライトの大ピンチに甚助は……
なんであのおばちゃんがここに?
俺は不思議に思いつつ、おばちゃんを見つめる。
「あれ? あなたは……」
ホムラちゃんも不思議そうな声音を吐く。
「ようこそシルバーライト」
「ようこそ? なんかまるで待ち構えていたみたいな言い方だね」
「待っていたよ。あなたの正体は知っていたからね」
「……っ」
シルバーライトの正体……。
つまりシルバーライトがホムラちゃんだと知っているということか。
「けど安心して。ここで正体をバラすなんて無粋なことはしないから。正体を知られていないほうが利用価値があるかもしれないしね」
「……あなたはイベントの主催者じゃないの? どうしてここにいるの? 捕まってるって雰囲気でもないし……」
「ほほほ、捕まってなんていない。むしろあたしは捕まえる側……ゲッゲッゲッ」
「どういう……えっ? あっ!?」
おばちゃんの姿が変わっていく。
やがて現れたのは、あのときのカニ怪人であった。
「ゲッゲッゲッゲッ。あたしはデッツの怪人、カニギラスさ」
「か、怪人っ!?」
俺の腹を貫いた怪人だ。
あのときの痛みを思い出した俺は、すでに治っている腹を抱えた。
「ううん? お前はあのとき実験動物として攫ってきた男か。怪我が治っているということは、実験は成功したのか? いやでも洗脳はまだみたいだけど……」
「今までに攫ったアイドルたちはどこにいるの?」
「ゲッゲッゲッゲッ、連中は改造手術を施すために牢屋に入れてあるよ」
「改造? どうしてアイドルを?」
「奴らの喉に洗脳電波を発生させる機械を取り付けて歌わせるためさ。その歌を聞いた人間はデッツに忠誠を誓うようになる。ゲッゲッゲッ」
そういう理由でアイドルを攫っていたのか。
しかしいかにも悪の組織がやりそうなことである。
「そんなことはさせないっ! わたしがお前たちの野望を打ち砕くっ!」
そう言ってホムラちゃんはシルバーライトが取るお決まりのポーズをした。
――うおおっ! 格好良いっ! かわいいっ!
――きっしょいカニ怪人なんてぶっ倒しちゃえーっ!
――いけーっ! シルバーライトっ!
コメント欄は大盛り上がりでシルバーライトを応援している。
しかし俺の不安は尽きなかった。
「ならあたしを倒してみるといい」
「ふふん。このスーツは魔物の素材から作られた装備品だよ。魔物の力を使っている怪人には有効なんだからね」
「はたしてどうかな。ゲッゲッゲッ」
「さあっ! おしゃべりはおしまいだよっ!」
ホムラちゃんは駆け出し。そしてカニギラスに飛び蹴りを入れる。……が、
「ゲッゲッゲッ」
カニギラスは蹴りを食らっても平気な様子で笑っていた。
「えっ? ど、どうしてっ!? このっ!」
続けてホムラちゃんはカニギラスを殴りつける。
何度も何度も殴りつけ、蹴っても攻撃するが、カニギラスには効いていなかった。
「あらあら? これでおしまいかな?」
「ま、まだっ!」
ホムラちゃんが腕を伸ばすと、腕輪が剣となる。
それを掴んで斬りつけるが……。
「効かないねぇ。ゲゲッゲー」
「こ、こんなはずは……ぐああっ!?」
カニギラスの手がホムラちゃんの首を掴んで持ち上げる。
「ゲッゲッゲッ、ガキが調子に乗りやがって。あたしはねぇ、若くて綺麗な女が大嫌いなのさ。だからこうしてそういう女を苦しめてやるのは楽しくてしかたがないよ。わざわざここへ誘導した甲斐があるってもんだ。ゲーッゲッゲッゲッゲッ!」
――え、ちょ、これヤバいんじゃね?
――マジヤバい! シルバーライトちゃんが殺される!
――殺人動画キター! わくわく!
――↑死ね
――DGに通報
――通報って場所がわかんねーよ
――スマホのGPSで特定できるだろ。
――もう間に合わんて。南無
――↑マジやめろ
コメント欄は大荒れだ。
無理もない。このままでは本当にシルバーライトが……ホムラちゃんが殺されてしまう。
「このまま首の骨をへし折ってやろうかね。けど安心していいよ。デッツの科学力があれば、ゾンビとして復活もできるからね。ゾンビとしてデッツの役に立ってもらうよ。ゲッゲッゲッ」
「シ、シルバーライト……っ」
助けなければ。
しかし俺になにができる。俺はなんの力もない無力な一般人だ。怪人を倒せる武器も、それを扱う適性も無い。俺にできることなんてなにもなかった。
「ぐ、うううう……」
「ゲッゲッゲッゲッ。少しずつ少しずつゆっくり殺してあげるよぉ。若くて美しい女が苦しむ姿は長く見ていたいからねぇ」
――誰かシルバーライトちゃんを助けてくれー!
――誰かってそこには普通のおっさんしかいねーよ
――おっさんが代わりに死ね
――↑それはさすがにおっさんがかわいそう
――おっさんの命よりシルバーライトちゃんの命のほうが大事だろ!
――それはそう
――もう諦めろ。おっさんも殺されて終わるだけ。南無
――↑だからそれやめろっての
――けど実際どうしようもないだろ。2人とも殺される未来しか見えない
――なんでこんなことになるんだよ!
俺だって代わりに死ねるならそうしてやりたい。
けどそれすら俺にはできない。俺も一緒に殺されるだけだ。
「あぐあぁぁぁぁぁっ!」
「もうすぐ死ぬね。もうすぐもうすぐ首の骨が折れるよぉ。ゲッゲッ」
「……っ」
ホムラちゃんを助けたい。助けなければ……っ。
できない。無力。自分は弱いから。
それがなんだ?
そんなの関係無い。
ここでなにもしなかったら、俺は死んだあとも後悔する。
どうせ死ぬなら、後悔なく死んでやる。大好きなホムラちゃんを助けようとして。
「う、うおおおおっ!!」
意を決して俺はカニギラスへ突っ込んでいく。が、
「ゲッゲッゲッ! 先に死にたいかっ!」
「あぐ……あ……」
カニギラスは鋭く尖ったハサミで俺の腹を突き刺す。。
そのまま俺は背後へとあとずさり、あのときと同じく仰向けに倒れた。
結局はなにできずに死ぬ。
このまま大好きなホムラちゃんを救うこともできずに……。
「う、ぐ……」
絶望する俺の左胸が急激に熱くなる。
「な、なんだ……」
熱くて熱くて堪らない。
心臓が燃え上がって全身が焼けてしまうような心地だった。
「うぐあああああっ!!!」
あまりの熱さに俺は叫び出す。
それに驚いたのか、カニギラスがこちらを向いた。
「なんだい? ううん?」
カニギラスがぎょっとしたような声を上げる。
「はあ……」
心臓の熱さが収まって俺は軽く息を吐く。
俺の心臓はもう熱くない。さっきまで痛かった腹の傷もなぜか消えた。
身体はすごく楽で、全身には力が漲るような感じがした。
「……ほう、その姿は」
姿?
俺の姿がなんだと言うのだ?
しかし言われてみればなにか違和感があるような……。
「えっ?」
見下ろした先には、黒い鱗に覆われた自分の腕があった。
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お読みいただきありがとうございます。
ついに変身、いや変化?
スーパーヒーローの誕生です。
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よろしくお願いいたします。
次回は自らの変化に驚きつつ、カニギラスと戦う。
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