異世界で、空に浮かぶ島を手に入れたオッサン、クラフトしながらスローライフを満喫する。たまにツレの巫女の頼みを聞いたりしながら、のんびりファンタジー世界を生きていく。

てるゆーぬ@キャンピングカー作品書籍化!

第1章1話:魔法文字と声

俺はジェラルド。


38歳。


髪は赤髪。


瞳の色は緑色。


身長170センチ程度。


ひげを生やした兵士のオッサンだ。





俺はヴィラール帝国の兵士として戦っていた。


いや……『戦わされていた』と言ったほうが正しいか。


ヴィラール帝国は軍国主義ぐんこくしゅぎで、他国たこく侵略戦争しんりゃくせんそうを何度も仕掛しかけていた。


俺の母国ぼこくも帝国に侵略され、敗北し、服属ふくぞくすることになった。


そして以来、俺は、帝国の軍隊に無理やり入隊させられ、各地の戦争に参加させられているというわけだ。


拒否権きょひけんはない。


俺は負けた国の人間だから、従うしかないのだ。


つまり奴隷兵士どれいへいしみたいなものである。


―――――兵士になってかれこれ5年になる。


5年も兵士をやっていれば、さすがに戦うことには慣れた。


だが、疲れた。


俺はもともと、しがないアイテム職人しょくにんだった。


いつか自分の工房を構えて、のんびりとクラフトをしながら生活するのが夢だった。


兵士なんて本当はやりたくないのだ。


(さすがに、限界かもしれないな)


自分の精神状態せいしんじょうたいを、俺はそのように分析する。


しばらく休みたい。


素直にそう思った。


(だが……無理だ。逃げることはできない)


そもそも今だって戦争中せんそうちゅうだ。


俺がいる場所は、荒野こうやはし


岩に囲まれた場所。


戦場から少し離れた安全地帯あんぜんちたいみたいなところで、俺のほかに兵士はいない。


俺を指揮する隊長はさきほど死んだので、命令系統めいれいけいとうが壊れ、俺は自由となった。


ただ、その自由も一時的なものだ。


隊長が死んだら、別の隊長の指揮下しきかに入らなければならない。


こんな場所で座り込んで、ひと休みしたり、考え事をしている暇は、本当はないのだ。


「動きたくねえ……」


と俺はぽつりとこぼした。


そのときだった。


「……?」


ふいに、俺の背後に魔力を感じた。


振り返る。


ちょうど俺は岩をにして座っていたのだが……


その岩の表面に文字が浮かび上がっていた。


魔法文字まほうもじ……?)


岩の表面に刻まれた文字は、魔力が込められた文字――――魔法文字まほうもじだ。


現代で一般に用いられる魔法文字ではなく、古代の文字なのだろうか。全く読むことができない。


しかし何らかの影響で、その魔法文字がひかかがやいている。


俺はそっと立ち上がり、その魔法文字を、もう少し丁寧に調べてみようとする。


だがそのとき。


『おぬし、解放されたいか?』


突然、声がした。


声がしたのはまさしく、その岩からである。


いや正確には魔法文字からだろう。


『兵士として戦わされる日々……おぬしが疲弊ひへいしていることがわかるぞ』


「……!」


この声の主は、どうやら俺の心理状態しんりじょうたいを読み取っているらしい。


声は続けた。


『解放されたいなら、わらわと契約せよ。おぬしに自由をくれてやる』


「自由……」


『おぬしが疲れ切った心をいやすための、自由じゃ』


……ふむ。


うさんくさい話だ。


だいたい、こいつは何者だ?


声だけを聞くと、少し神聖な感じもするが……


実は邪悪な魔物という可能性もある。


うかつには信用できない。


(……だが)


俺は、この声の主が提示してくれた言葉に、ひどく心をかれた。


兵士として戦わされてばかりの日々。


夢も希望もない毎日にうんざりしていた。


だから、このクソみたいな現状を変えてくれるかもしれない存在に、強い期待を覚えたのだ。



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