第44話


 彼女の笑顔に勇気を貰い、俺はマグナトロを握り直した。


「ああ!」


 スタン効果の切れた龍子先生の凶刃が迫る。

 俺と美奈穂のデュアルパリングがその暴虐を食い止める。

 春香と美咲が遠距離攻撃で龍子先生のHPバーを削る。

 地雷のダメージもあり、HPはもう残り数パーセントだ。


 廊下の遥か奥からは、復活した夏希が正確な無比な狙撃で、龍子先生の膝裏を撃ち抜いた。


「ボクは、まだ死んでいませんよ先生!」

「ぐぅ!」


 背後にグラついた体に、ダメ押しの攻撃を加える。


 大きく踏み込んで体をひねり、腕を経由して、その運動エネルギーを全てマグナトロの推進力に変えて突き出した。


 渾身の大突きは龍子先生のみぞおちにクリーンヒット。その状態で、俺はマグナトロの穂先を射出した。


「零距離カノン!」

「ッッッ!」


 龍子先生は、息を詰まらせながら背後に押し込まれた。


 それでも、ボスエネミーアバター由来の脚力で抗い、軍靴の底で床に二本のわだちを刻んでいく。


 そのまま、再び地雷原まで押し戻されるも、都合よく地雷は踏んでくれなかった。


 穂先を抱える龍子先生の顔に、わずかな安堵の表情が浮かぶ。

でも、それを見越していた俺は、美奈穂に頼んで俺ごとブーストジャンプをしてもらっていた。


「先生知っていますか? 俺のマグナトロは、僅かでも電磁力を貯めれば、必殺技を使えるんですよ」


 もちろん威力は最低だけど、最後の、本当に最後のダメ押しにはなる。


「行って幹明!」


 龍子先生が抱える穂先と電磁力で引き合い、俺は美奈穂の腕から飛び出す。

 着地先は、龍子先生の顔面だ。


「ぶはっ!」


 足は顔面に、柄は穂先とドッキング。

 顔を蹴られて仰け反る龍子先生のお腹と穂先にわずかな隙間を作ってから、俺はロックオン・ストライクを発動させた。


「これで終わりだ!」


 鋭い穂先がどてっ腹に直撃する。

 龍子先生の体が、叩き落とされるような勢いで床に激突した。

 残りの地雷がどこにあるかはわからない。


 でも、大きな体を大の字にすれば、流石に一つぐらい接触するだろう。

 巨大な爆炎が俺と龍子先生を包んだ。

 自分を犠牲にした俺の特効作戦。


 けど、夏希と美奈穂のおかげで、肉斬り包丁の攻撃を一度も食らわずに済んだ俺のHPには少しの余裕があるのに対して、向こうのHPバーは残り数パーセントだ。


 なら、結果は火を見るよりも明らかだ。

 顔をしかめるような熱さと爆炎が収まってから、目を開ける。


 俺は、仰向けに倒れる龍子先生のお腹の上にまたがっていた。ちょうど、マウントポジションを取る形だ。


 俺のHPは、残り数パーセント。

 対する龍子先生は目を閉じたまま動かず、【DEAD】と表示された。

 次の瞬間、俺の視界の端で、討伐ポイントの計算が始まった。


 五人がかりで倒したせいで全ポイントとはいかないけど、結構な数字が加算された。


 みんなも、喜びの声を上げた。


 その様子から、俺も徐々に実感が湧いてくる。

 信じられないけど、俺は龍子先生に勝ってしまった。

 視界に表示されている討伐ポイントも、嘘じゃない。

 なら、ならこれでついにパン耳地獄ともおさらば。


 それに、パンツ星人なんていう不名誉なあだ名で呼ばれても、強気に言い返してやれる。


 津波が押し寄せるように、俺の胸にはかつてない感動と喜びが溢れていた。

 この二か月の苦しみを深く思い出して、涙腺が熱くなった。

 本当に辛かった。


 でも、もう全部全部終わりなんだ。

 そう思うと跳び上がりたいほど嬉しくて、じっとなんてしていられなかった。


「い、いやったぁあああああああああ!」


 龍子先生のお腹の上から跳び上がって、ついはしゃいでしまう。

 詳しいランキング発表はまだだけど、ボスエネミーを倒したんだ。きっと一気に上位ランカー入り、高額マネーポイントが支給されるに違いない。


 明日から始まる豊かな学園生活を夢想して、俺は小躍りした。


「あ、幹明、あんまりはしゃいじゃダメ!」


 美奈穂が何か言っているけど気にしない。

 頭の中では、祝勝の花火が炸裂した。


 ちゅどーん!


 本当に何かが炸裂した。

 俺の脳が作り出した幻影?

 ゲーム終了の祝砲?


 いや違う。


 さっきと同じく肌を舐めるような熱さ。

 俺を天井までぶっ飛ばすこれは、美奈穂の地雷だ。


 床に叩きつけられた俺のHPバーがゼロになった。

 視界に映る討伐ポイントがゼロになった。

 【YOU DEAD】


 月末試験一位は、美奈穂になった。

 そして、俺のパン耳地獄の延長が決まった。


「ノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

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