第43話
龍子先生が、肉斬り包丁を振り上げた。
「くたばれガキ共ぉ!」
演技だとしても教師が生徒にそんなこと言うなよ。と思いながら、俺はマグナトロで肉斬り包丁を迎撃しようとする。
夏希も、俺に合わせて銃剣を振るった。
すると、俺と夏希の得物は、ほぼ同時に肉斬り包丁と激突した。
今度は押し負けない。
巨大な肉斬り包丁をはじいて、龍子先生に隙ができる。
重量級のボスエネミーの攻撃に対して同時攻撃を行うことで弾く、デュアルパリングというテクニックだ。
これで攻撃をはじかれたアバターは、一瞬の硬直時間が入る。
そこへ、美奈穂のビームライフルと春香の水弾、そして美咲が放った炎の狼が殺到した。
三人とも教室に移動して、しっかりサイドを取っている。
三人の攻撃をまともに受けた龍子先生のHPバーが、少しだけど、確実に減った。
今度はそれの繰り返しだ。
龍子先生の攻撃を、夏希が俺の動きに合わせた同時攻撃でパリング。
動きが止まったところを、春香たちが一斉攻撃する。
けれど、龍子先生が春香たちを攻撃することはできない。
そんなことをすれば、俺と夏希に背後から攻撃されるのは必定だ。
龍子先生は、まず近接戦闘をする俺と夏希を倒さなくてはいけない。
この方法で、龍子先生のHPバーはみるみる減っていく。
流石は夏希、俺の幼馴染。
まさに以心伝心、息をぴったり合わせて、夏希は俺を支えてくれた。
でも、夏希こそがパリングのキーだと察したのか、龍子先生は不意に肉斬り包丁を床に突き刺した。
「憤ッ!」
肉斬り包丁を鉄柱に見立て、龍子先生はポールダンサーが人間フラッグをするようにしてドロップキックを夏希に叩きこんだ。
たまらず夏希は後ろにぶっ飛び、それからスタン効果で動かなくなった。
まずい。俺一人じゃ、攻撃を弾けない。
「フェンリル召喚!」
美咲が展開した召喚陣から、巨大な黒い狼が解き放たれる。
その横では春香がしゃがんで床に手を付け、先生の足元を凍結させていく。
先生はサイドダッシュで避けようとするも、凍った床のせいで初動が遅れる。
フェンリルは直撃こそしくじるも、龍子先生の右腕に噛みつき、HPバーを持っていく。
「捕まって幹明!」
俺の名を呼びながら手を伸ばすのは、美奈穂だった。
パワードスーツ学園アバター特有のブースターを使い、一息で俺の元まで駆けつけてくれた。
そのまま俺の体を抱き寄せると、彼女は再びブーストジャンプで廊下の奥へと逃げる。
距離を取られまいと、龍子先生は戦車のような勢いと力強さで廊下を激走してくる。
一気に三〇メートルは跳躍した美奈穂は、俺を下ろすと踵を返しながら、武装を呼び出す。
彼女の手の平からグリッド線が奔って、高周波ブレードが形成されていく。
そうしている間にも、龍子先生はみるみる迫ってくる。
マグナトロの穂先を射出して迎撃するか、俺がそう思った矢先、美奈穂が鋭く囁いた。
「幹明待って」
「え?」
目の前で、巨大な爆発が起きた。
「ぐぁああああ!」
龍子先生の足元から吹き上がった爆炎は一瞬で彼女を呑み込み、黒煙が廊下に垂れこめた。
何が起こったのかわからない俺に、美奈穂がVサインをする。
「さっき、あの辺にステルス地雷を撒いといたの。ブーストジャンプしたわたしたちは平気だけどね」
いたずらっぽく、ぺろりと舌を出す。
ここが戦場であることを忘れさせてくれるような笑顔に、ちょっと胸が高鳴った。
でも、龍子先生はそんな甘い時間を許してくれない。
水面から飛び出す殺人サメのように、黒煙を切り裂き龍子先生が襲い掛かってくる。
巨大な肉斬り包丁が大気を焼き切り、その迫力に呼吸が止まる。
俺は脊髄反射で迎撃に動くも、俺の隣に夏希はない。
けれど、俺の動きに的確に合わせてくれる刃の閃きが、一緒に肉斬り包丁を弾いてくれた。
閃きの主は美奈穂。
俺をパン耳地獄に突き落とした、諸悪の根源だった。
「幹明たちと友達になった日、みんなにパリング教えてもらったよね。わたし、ずっと練習していたんだよ」
高周波ブレードを構えて、美奈穂は、勇ましい笑みを作る。
「一緒に戦おうよ幹明。わたしのせいでパン耳地獄なら、わたしが助けてあげる。だから、ふたりで龍子先生を倒そ」
彼女の笑顔に勇気を貰い、俺はマグナトロを握り直した。
「ああ!」
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