第30話


 次の瞬間。

 孔の中から、モンスターの軍勢が吐き出された。


 モンスターたちは空を走るように、街中へと散っていく。

 なかなか派手なオープニングだ。


 案の定、俺らの前に突然MRウィンドウが開いた。


 そこには、召喚術学園の教官、という設定の美人キャラクターが、眉を立てた真剣な顔で映っている。


「大変よみんな! 精霊界のゲートが突然開いて、多くの精霊たちがこちらの世界に迷い込んできたわ! 街の人たちに被害が出る前に、一刻も早く目標を駆逐するのよ!」


 続けて、文章メッセージが表示される。

 ハンティングのルール。

 開始時間と終了時間。

 バトルフィールドのエリア。


 そして、下へスクロールすると、各種モンスター(精霊)の画像と名前、倒した際の獲得ポイントが表示されていた。


 これはシステムメニューからいつでも再確認できるので、閉じても問題ない。


 そして最後に、ゲームに参加するかの最終確認ボタン。

 他の参加者たちは、イエスをタップしてから、次々ウィンドウを閉じて、公園を走り去る。


 ここにいても、他の参加者とモンスターの取り合いになるだけだ。


 大人数が参加する大規模ハンティングの場合、近場の敵を倒すよりも、まずは自分だけの狩場を確保するのがセオリーだ。


 パワードスーツ学園アバターの生徒たちが、次々背中のブーストで長距離跳躍をしていく。


「美奈穂はどうする?」


 俺は気を使ったつもりだけど、美奈穂は頬を膨らませる。


「ぶー、一人で遊んでもつまらないじゃん。幹明のいじわる」

「ははは。ごめんごめん。じゃあそろそろ俺らも行こうか、ん?」


 レンガで舗装された公園の地面を、何か金属質の物が転がる音が聞こえる。

 ふと地面を見下ろせば、俺ら五人の中央には、ミリタリー学園のアバターが使う、手榴弾が転がっていた。


 さっきのナンパ野郎たちの中に、ミリタリー学園のアバターがいたことを思い出しながら、俺はみんなに叫んだ。


「バックダッシュ!」


 爆炎と爆音と爆煙が辺りを包んだ。

 いきなりPKなんて無茶苦茶だ!


 でも、夏希たちがバックダッシュで距離を取ったのは見た。きっと無事だろう。

 他のプレイヤーたちも、ここにいたらPKされると思ったのか、次々逃げ出す。

 俺は、なんとかみんなと合流しようと思うも、爆煙の中から次々手榴弾が投げ込まれてきた。


「え? 何これ俺が狙われているのそれとも運?」


 その答えは、次々爆発する手榴弾の煙の中から現れた。

 さっきのナンパ野郎五人組のうち、三人が俺に向かって銃や弓矢を向けてくる。


「うわわわわっ!?」


 三人の一斉射撃に、近接戦闘タイプの俺はなすすべもなく逃げ出した。

 狙いをつけにくいよう、ジグザグに走るのを忘れない。


 くそぉ!

 確かに栗毛ツーサイドアップ豊乳美少女と金髪碧眼巨乳美少女と黒髪縦ロール美少女お嬢様を侍らせている男がいたら俺だって一斉射撃したいけど、俺は誰ともうらやまけしからん関係にはなっていないんだぞ! だからこれは不当だぁ! パンツは見たけど!


 心の中でそう叫び続けながら、俺は公園を後にした。


   ◆


 数分後。

 俺が逃げ込んだのは、大通りからは外れた路地裏だった。


 すぐ近くのゴミ箱の上には野良猫が座っているけど、俺に気づく様子はない。

 デバイスを装着していない猫に、アバターである俺は見えないのだ。


 今回のバトルフィールドは、さっきの公園を中心にした半径一キロのエリアだ。


 そこから外に、モンスターは出られない。


 プレイヤーは出られるけれど、それをするとエリアアウトで強制的にゲームオーバーになってしまうから、注意が必要だ。


 それほど遠くには来ていないけど、一応、マップを確認する。

案の定、外側ではあるけど、まだエリアアウトには余裕がある。


「でも、みんなとはぐれちゃった。どうしよう」


 チーム戦なら、仲間の位置がマップに表示されたり、仲間のいる方角を示す矢印が視界に表示されたりするし、ゲーム中でもメッセージのやり取りができるんだけど、今回は個人戦だ。


 みんなバラバラの方角に逃げちゃったし、みんなを探すには大きく迂回して公園近くを探すしかないかな?



「迷子くん見ぃつけた」


 振り返ると、表通りのほうから、路地裏の出口を塞ぐように、大柄な男子がのしのしと歩いてくる。


 肩に大きなバトルアックスを担いでいるところを見ると、俺と同じ異能武器学園アバターのようだ。


 しかも、物音に頭上を見上げれば、パワードスーツ姿の男子が三人、銃を俺に向けていた。


 チビ、デブ、ヒョロの三人は、今時アクション映画にも出なさそうなほど、下卑た笑みを浮かべて、くつくつと忍び笑いを漏らした。


「悪いけど、ここは俺らの狩場にする予定なんでな」

「他のプレイヤーには退場してもらうぜ」

「最後に言う言葉はあるか?」


 俺は息を呑み、一言言った。


「ほかの二人はともかく、なんでお前はパワードスーツ学園アバター選んじゃったの?」


 チビとヒョロの視線がデブに集まる。

 金髪セクシー美少女の美奈穂がいい例だけど、パワードスーツのインナーは、ぴたっと体にフィットしたレオタードタイプのデザインだ。


 中には戦闘機のパイロットが来ているようなものもあるけど、デブが選んだのは、よりにもよって、美奈穂と同じレオタードタイプだった。

 もちろん、男性用ではあるものの、ポッチャリお腹のラインは丸見えで、裾は太ももの肉に食い込み、ぼんれつハムのようになっている。


 それぐらい、キャラメイクでいくらでも修正できただろうに。

 デブの肩と銃口とテンションが、がっくりと落ちた。


「やっぱりこれ、変なのかなぁ……」

「へ、変なんかじゃねぇよ! なぁ!」

「そうだぜ! 妹さんが選んでくれたアバターじゃないか! もっと自信持てよ!」


 バトルアックスのリーダー格も援護に入る。

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