第24話


 俺と美咲の得物が交差した。

 異能武器VS召喚術。


 どちらもライトノベルやマンガ、アニメでは人気のジャンルだ。

 その、異種ジャンル大戦が教室中をズタズタにしていく。


 異能武器の電磁ハルバード、マグナトロを縦横無尽に振り回し、電磁力で鉄筋を引き寄せ三次元の戦いをしながら、隙を見て電撃を放つ俺。


 狼王フェンリルの力を体に宿し、フェンリルの爪の力の具現である十本の剣を自由自在に操りながら、要所要所でフェンリルの前足による攻撃を入れてくる美咲。


 こんな時に不謹慎だけど、やっぱり【スクランブル】は楽しい。

 だけど、これだけじゃ足りない。俺は、楽しい青春が欲しいんだ。

 そのためには……。


「勝って! 最下位から抜け出してマネーポイントゲットじゃああああああああ!」


 美咲を廊下側の壁に叩き飛ばして追撃する。

 けれど、美咲は浮遊剣で背後の壁をくりぬき、体重を預ける壁ごと倒れ込んだ。


 渾身の突きは空振り。

下を取った美咲が、浮遊剣を俺に向け、剣同士が交差するように突き出した。


「させるかぁ!」


 天井に対して電磁力を発動させ、真上に緊急回避。

 俺が異能武器にマグナトロを選んだのは、空中でも緊急回避ができるからだ。


 そして、美咲のおかげである作戦を思いついた。


 美咲って、すぐに壁や床をくり抜いて回避するんだよな。

 俺らの戦いは廊下で仕切り直し。

 残り時間は二分を切っている。それまでにコインを奪わなくては。

 跳ね起きた美咲と睨み合うや否や、すぐにまた斬りかかった。


 そこへ、廊下の奥の曲がり角からビームが飛んできた。

 ブースターを背負い、機械の手足を付けている生徒が、ビームライフルを乱射しながら、迫ってくる。彼の前を、素手の女子生徒が走っている。


 彼女は何もない手から、氷や炎、雷を放ち応戦する。

 どうやら、他のクラスのパワードスーツ学園アバターと、魔法学園アバターの生徒が戦っているらしい。


 二人は俺らを意に介さず突っ込んできて、俺らの体をすり抜けていく。

 そういえば、生徒同士の戦いは干渉しないんだったな。

 でも、これは使えるぞ。


 勝機をその手につかみ、俺は闘志のボルテージを上げながら、美咲に連続突きを見舞う。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラぁ!」

「熱いですわね幹明。そういう男性は、嫌いではありませんわよ!」


 美咲は両手の剣でさばきながら、召喚陣を四つ展開。

 そこから、炎の狼が飛び出してくる。

 美咲は、その陰に隠れるようにして、一気に距離を詰めてくる。


「させるか! リニアバックダッシュ!」


 背後の床の鉄筋から順に、流れるように遠くの鉄筋へ電磁力を発動させることで、俺は超高速かつ長距離のバックダッシュをキメた。


 炎の狼は射程距離は、それほど長くはない。

徐々にその身をほつれさせ、風に吹かれる炎のように掻き消えた。


 一方、俺はバックダッシュのさなか、肩越しに、担任の鬼教師、鬼瓦龍子の姿を見つけた。

 俺らが不正行為をしていないか、見回りをしているんだろうけど、今は俺のカモでしかない。


「あらよっと」


 バックダッシュからの跳躍で、俺は龍子の背後へ隠れた。

 長身の龍子の体なら、俺の体はすっぽり隠れられる。槍も、穂先を前に向ければ、美咲からは見えないだろう。


 喰らえ。

 これが、先生という目くらましから放つ突き、名付けて、スモークストライクだ。


「貫けぇええええええええ!」


 俺が腰を落とし、やや斜め上に突き込んだマグナトロの穂先は、龍子のお尻を通り、下腹から突き抜けて、迫る美咲のみぞおちを抉った。彼女の体に、電磁力がマックスまでチャージされた。


「くっ」


 美咲のお腹に、コインが浮かぶ。

 振り返った龍子の体をすり抜けて、俺は美咲に追撃を仕掛けた。


「おらっ!」

「くっ」


 俺の横薙ぎの一撃を、美咲はすぐ近くの理科室に飛び込んでやり過ごした。

 理想的な展開に、俺は歯を見せて笑いながら理科室に飛び込んだ。

 思った通り、美咲は俺の必殺技を警戒して、壁に背中を預けていた。


「かかったな美咲。理科室の机は広くてしかも床に固定されている。移動が制限されるここなら俺の必殺技、ロックオンストライクをかわすことはできないぜ!」


 叫びながら、俺はマグナトロの穂先を美咲に向けた。

 けれど、美咲は余裕の表情を崩さない。


「学習しない人ですわね。なら、隣の部屋へ移動しますわ!」


 宙に浮かぶ真紅の切っ先が、一斉に背後の壁を奔った。

 そして、美咲はその場から動かなかった。


「っっ、まさか!?」


 ようやく、美咲も気づいたらしい。

 そう、前にも説明したが、MRバトルで壊せるのは生徒の立ち入り禁止区域以外の場所だけ。そして、理科室の隣は危険な薬品類がぎっしりの理科準備室。

 生徒立ち入り禁止区域だ。


 目を見張る美咲の体が、電磁力の光に包まれる。

 マグナトロをつかんだ右手を弓のように後ろへ引き、槍投げのフォームに入りながら、俺は腹の底から声を上げる。


「電磁力解放。いくぜ美咲、これが俺の必殺技! ロックオンストライクだ!」

「くっ、召喚、フェンリル!」

「遅い! パン耳生活よサラバ! ウェルカム、マイ・ゴールデンウィイイイイク!」

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