時の栞と幾重のページ ~アドベントカレンダー2024~
ナナシマイ
p.??-01 来年のカードは任せてください(2024/12/01)
祝祭期間を迎え、街灯には結晶化させた青薔薇のスワッグが吊るされた。
結ぶのはやわらかな灰色のリボン。雲をそのまま鞣したような風合いで、よほど触り心地がよいものか、ところどころで小さな妖精が頬ずりしているのを見かける。
可愛らしい妖精の姿に気づいた若い女性たちはどの店のリボンかと入手作戦会議に花を咲かせ、同年代の男性らは是非に自分が見つけようではないかと周囲の店へ注意深く視線を走らせた。
沿道の生け垣には銀の鈴。雪の積もるがごとく敷き詰められたそれが、木枯らしの吹くたびにしゃらしゃらと清涼な音を立てる。
そんなファッセロッタの街をゆきながら、森の魔女はふふんと軽やかに白い息をこぼした。
今年の祝祭の色は、青灰色と銀色だ。
それは雪降る宵の色。重く立ち込めた雲は寂々と深い青を抱き、その向こうへ白昼のかそけき光を溶かし沈めていく。
こっくりとした葡萄酒の色を持つ森の魔女とは対極にあるように思えるが、冬の森にはよく見られる色彩だ。
(だからこの色は、わたくしの要素のひとつでもあるのだわ)
*
もう「馴染みの」と表現してもよいであろう、香草の妖精が営むペーパーショップにて。
若草色の羽を素敵に光らせる店主が見守るなか、魔女は厚紙コーナーの棚を何度も行き来した。
ややして厚紙を二枚手に取り、ひとつ頷く。
「あら、決まったのかしら」
「……っ、はい、居座ってしまってごめんなさい。たくさんの色があるだけではなくて、手触りや香りまで違っているのですもの」
「いろんな香草を織り込んでいますからね。そんなふうに悩んでくれるなら、ええ、ええ。作った甲斐があるというものです」
支払いをしようと棚を離れつつ、もう一度だけと、振り返る。魔女を最後まで悩ませた、街灯のリボンに似た色をしたホワイトセージの紙。しかしやはりこちらだと、手にした紙を店主に渡して会計を頼む。
選んだのは、曇天の夜色が美しく、またかすかな凹凸が角度によって光を変える雲のように表現された紙だ。どこかしっとりした触り心地のよさは言うまでもなく、少しずつ変化していくラベンダーの香りを楽しむこともできるらしい。一年のあいだ毎日使うにはぴったりだと思う。
(……でも、やっぱり、自分用にあちらも買ってしまおうかしら)
魔女の考えなどお見通しというふうに、店主の妖精は目尻の皺を深めた。
「そうでした、そうでした。祝祭期間は、三点めから割引をという張り紙を出し忘れていましたね」
商売上手な店主に負けて、魔女はそっと、やわらかな灰色を添える。
『いよいよ祝祭期間ですね。わたくしはいつものペーパーショップでとっても素敵な紙を手に入れました! 以前に宣言したとおり、来年のカードは任せてくださいね。星の乱れにも負けない、うんと強いメッセージカードを作ってみせます!』
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