二章【凡人のバトン】
【1】「転生者」
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【視野2】「佐倉 誠」
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僕が目を開けると、そこは洋風の広間だった。
周囲には、
困惑した顔の人や、
貼り付けた笑顔の人、
あからさまに、敵意を持つ人。
様々な面相が見て取れる。
状況が全く読めない。
「異世界転移きたぁあああ!!!」
「!?」
すぐ右隣から、怒鳴り散らした様な奇声、
耳障りなハイトーンで誰かが叫んだ。
反射的に視線を向けると、
そこには、学ランを着た
同年代の少年がガッツポーズをとっている。
「いせか…い…?」
隣から、もう一つ声がする。
こちらは打って変わって、
心地の良い、耳がとろける様な声だ。
例えるならば、雪解け水に浸した鈴のような音。
声の方向へ視線を向けると、
白みがかった艶やかな赤毛に、
深い森に続くような
像を反射しそうな程、きめの細かい白い肌、
形の良い胸、くびれた腰……。
そんな容姿端麗な美少女が、
腰を抜かして座り込んでいる。
僕はどうやら、異世界に来てしまったようだ。
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僕の名前は、サクラ マコト。
高校2年生の日本人だ。
自分の記憶をさかのぼって、
この世界に来る、きっかけを思い出してみる。
たしか野球部の朝練が終わって、
エースの西田が「腹が減ってしょうがない」とか言うから
一緒にコンビニへ買い食いに行ったんだ。
その道中、4車線の国道を自転車で横断しようとして…
西田のチェーンが外れたんだ…それを助けて……
そこで……
僕の脳裏に「走り屋魂」と書かれた奇抜なステッカーと、
焦った運転手のローアングルが蘇る。
そうか、僕はあれで死んでしまったんだ。
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こういう状況を、異世界転移というらしい。
僕にそう教えてくれたのは、
同じく転移してきた学生の、シミズ アキヒロだった。
彼は終始、異常なほど喜んでいて
色々なテンプレ展開?とかいうのを熱く語ってくれたが、
その内容から、この状況を正しく判断するのは難しかった。
もうひとり。
僕とアキヒロと同じく、ここに召喚された女の子が居る。
彼女は、ナオという名前で、
苗字は相良か佐川か…声が小さく聞き取れなかった。
ナオは、この状況がよほどショッキングだったのか、
名前だけなんとか絞り出すと黙ってしまい
オロオロとして縮こまってしまった。
彼女がパニックを起こした理由に、
僕も共感できる事がある。
それは見た目だ。
この世界に来るにあたって、
僕の姿は変貌していた。
僕は、元来、黒髪の標準体型で、
顔は…自分で言うのもなんだけど
整っている部類だったと思う。
現に、女の子に告白されたことが5回ほどある。
……おっと、自慢話をしている場合じゃない。
まぁ、とにかく僕の見た目は、
平均的な男子高校生のそれだった。
だがどうだろうか。
今の僕の姿は。
透明感のある金髪に、潤んだ青い瞳。
適度な太さで引き締まった体、
更にその顔は自分でもうっとりする美少年だ。
ナオも同じように、
元の体とかけ離れていたんだと思う。
彼女にしても、元はわからないが、
整った容姿をした絶世の美少女だ。
好意的な変化とはいえ、
自分の容姿がここまで変わると困惑してしまう。
そういえば、アキヒロだけは、
なんというか、元の姿のままだったと思う。
髪の色も、顔も、日本人らしいものだったし、
体型もパンパンな学生服を見れば、
僕とナオの変身傾向からは外れる。
悪いとは思ったが、正直、少し笑ってしまった。
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僕達が現れた部屋に、人が沢山居たのは、
そもそも僕達がここ現れる事を知っていたからみたいだ。
「ヘシオーム王国、国王が謁見を希望しております
是非ともお話を聞かせてください。英雄様方」
言葉が通じる事に喜んだのも束の間、
王様という言葉に面くらい、
英雄という言葉にたじろいだ。
それから王の元へ招かれた僕達は、
多くのことを知る事になる。
そこでの話を要約すると……
~以下説明~【伝説の3人】
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
古い時代。唯一神アロンパンと、虚神ゲルドパンの戦いがあった。
長い間決着のつかなかった2柱の神は、各々で眷属を産み出し
その者達を争わせて勝敗を決める事とした。
アロンパンは、
ゲルドパンは、
自らの化身として創り出し、殺し合わせた。
だがしかし、この戦いの勝者は、
唯一神でも、虚神でもなく、その眷属達だった。
神族の身勝手により殺し合う為に産み出された2種族は、
互いに結託し、神を狩り殺す算段を立て、
神に匹敵する能力を持つ者達にそれを託した。
英雄ヘシオム。
勇者アヌロヌメ。
聖女ドドゴミン。
彼らは、見事2柱の神を打ち倒し、
この国に安寧が訪れた。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
~以上説明終わり~
「そして、我々の先祖、古代アロアント人と古代ゲルアント人は、
神の核を使い、2つの魔法源泉を建造しました。
それが、今ある魔法社会の基礎となっております」
僕は、そこまで話してくれた歴史家の女性に
一応の拍手を送った。
彼女は少し照れてはにかんだ。
「更に、この様な文献があります」
そう言ったのは、考古学者と名乗った男性。
「魔法源泉の核部分には、とある魔法回路が組み込まれており
『再び神の脅威が訪れる時、【英雄】【勇者】【聖女】の因子を持つ人間を召喚する』
と、こうあるのです」
「つまり……それが俺たちだって、そう言うんですね!!!」
アキヒロが、さも「待ってました!!」と
言わんばかりに大きな声を上げた。
考古学者の男性は「おそらくは…」と、軽く頷いた。
「それじゃ…この国は今、その…アンパンだとかメロンパンだとかいう
神の脅威に晒されているんですか?」
僕はそう言って、くるりと
どうにもそういう雰囲気には見えない。
緊迫感や危機感といった、
そういう切迫した影響下にあるとは思えず
窓から覗く、城下の景色を見ても平和そのものに見える。
そこでようやく国王が口を開いた。
「わからんのだよ」
「わから…ない?」
「そうだ。
少なくとも我々は神の脅威など感じてはいない」
うん?どういう事だ?
つまるところ、僕達はなんの理由もなく
この世界に呼ばれたって事になるのか?
「魔族領の国、アヌローヌ共和国にも、
この度の一件は伝えているのだが、
あちらでも何か動きがあるとは思えんのだよ」
国王は、濃いネイビーの髭を掻き分け、
「ふーむ」とものを考えている。
周りの人間にしても「どうしたものか」と、
なんとも扱いにくそうな雰囲気を出している。
アキヒロは「スローライフ系なのか?」と、
よくわからない事を言っていて
ナオは、相変わらず不安そうにモジモジしながら
視線をあちらこちらに向けている。
その時、扉を勢いよく開き、1人の男が入ってきた。
「国王、失礼致します。
その件、私に心当たりがございます」
「おぉ…マルケリオン!
法力の賢者マルケリオンではないか!」
マルケリオンと呼ばれた男の人は、
長身に美しいマントをたなびかせて
絵になる歩き方でレッドカーペットを進み、
王の前に
「報告致します。ウドド運行列車が襲撃されました」
ザワッと、部屋に緊張と困惑が広がった。
僕達も、その様子を固唾を飲んで見守る。
「ウドド線が?…うむ……しかしマルケリオンよ。
ウドド線の線路は、お主が直々に防壊魔法を組んだはずだ」
「力及ばず、破壊を許してしまいました」
「なんと…それほどの相手か…トマリンは無事なのか?」
「少量ではありますが、奪取されました。
大半は無傷です……しかし、列車が破壊された事で、
現状では、十分なトマリンを供給できません」
「……それでは、『悪意結界』の効力が弱まるではないか…。
ふむ。つまり、ウドド線の襲撃は、それが目的か。
その首謀者に心当たりがあるのだな?」
「名答にございます。
私が交戦したのは、かの勇者殺しの魔女と、
彼女が率いる虚神教団です」
「神戦時代から生きる魔女か…
虚神教団が関わるとなれば目的はやはり…」
「はい。ほぼ間違いなく、
魔法源泉に眠る神の核です」
「そうか……しかし、解せんな」
「はい」
「奴らが信仰するのは『虚神ゲルドパン』のはず、
我が国の魔法源泉は『唯一神アロンパンの核』……。
奴らがそれを知らない訳もあるまい」
「その通りでございます…しかし、
目的は解せずとも、その行動は明確。
こうして召喚者達が現れたのが1番の証拠かと」
マルケリオンは、ようやくこちらを見た。
虹色の瞳をした、彫刻のように整った顔立ちの男性、
その知的な目と、温厚な口元を見れば、
女性ならばイチコロだろう。
現に、ナオは彼を見つめて微動だにしない、
目を見開き、心なしか頬も赤いように見える。
なんか、嫉妬しちゃうな。
「……辻褄は合うか……よろしい、総括しよう。
近々、魔法源泉の核を狙った戦が起こり、
それを退ける力が、この者たちにあると…そういう事だな」
「はい。我が国には、我ら大賢者が居ますが、
マリメラ環状宮での戦いで、
対して虚神教団の僧兵は、実力者ばかり……」
「難しい戦になりそうだな。
マルケリオンよ、他の大賢者はどうだ?」
「はい。私もキャリバンも直ちに動けます。
アラランは、西部諸国に出向いていますが、
逆にウドド方面ですので、都合が良いかと」
「よろしい。では、マルケリオン。
大賢者と、彼らの召喚者の一切を任せるぞ。
私は、アヌローヌ共和国の大統領と連携をとり事に備える」
「御意。命に変えましても遂行いたします
差し当たって、魔位測量師をお借りします」
「わかった。
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