第二章 : 恋の橋渡し。

Part 1 : 隠れた魅力


放課後、再びあの空き教室に集まった俺たちは、紗良を交えて作戦会議を始めていた。


「探偵小説が好きなんだって?」


机の上に肘をつきながら、遥香が真っ直ぐに紗良を見つめる。その視線に押されるように、紗良はコクンと小さく頷いた。


「は、はい……子供の頃から好きで、いつも新しいのを探して読んでます。」


「へえ、探偵小説って結構難しそうだけど、どんなところが好きなの?」


俺が何気なく聞くと、紗良は少し戸惑った後で、ぽつぽつと言葉をつなげた。


「謎を解いていく過程とか、登場人物が持ってる秘密とか……なんか、読みながら頭の中で整理していくのが楽しいんです。」


「なるほどな。それで図書室でメモしてたのか。」


俺がそう言うと、紗良は目を丸くした。


「え……見てたんですか?」


「ああ、いや、翔が言ってたんだよ。」


その言葉に、紗良の顔がパッと赤く染まった。耳まで真っ赤になっているのが分かる。


「そ、そうなんだ……高橋君、そんなこと……。」


「まあ、いいことだと思うぞ。翔もちゃんと見てるってことだしな。」


そう言いながら俺は軽く肩をすくめた。紗良は照れたように俯きながら、小声で「ありがとうございます」と呟いた。


「ところで、紗良さん。」


遥香が話題を切り替えるように声をかける。


「その好きな探偵小説で、何か話題になりそうなエピソードとかある?」


「話題になりそう……ですか?」


「例えば、高橋君が興味を持ちそうなこと。ほら、彼って割と軽いノリだから、難しい話じゃなくてもいいの。」


「そ、そうですね……。」


紗良は少し考え込むように指先を唇に当てた。その仕草を見ていると、普段の大人しいイメージとは違って、ちょっと活発な一面もあるように思える。


「……あの、最近読んだ本で、すごく面白いトリックがあったんです。」


「ほう、どんな?」


遥香が興味深そうに身を乗り出すと、紗良は嬉しそうに語り始めた。


「密室殺人のトリックなんですけど、犯人が部屋を完全に密室に見せるために、ドアに特殊な仕掛けを使ってて……。」


話が進むにつれて、紗良の声には力が入り、身振り手振りも増えてきた。目が輝いていて、普段の彼女からは想像できないほど生き生きしている。


「なるほどね。」


話を聞き終えた遥香は、ふっと笑った。


「案外面白い子かもね、紗良さん。」


「えっ?」


「その話、高橋君にしてみたら?結構興味を持つかもしれないわ。」


「で、でも……私、話すのが苦手で……。」


俯きかけた紗良に、遥香が冷静に言葉をかける。


「大丈夫よ。私たちがちゃんとフォローするから。」


「そ、そうですね……。」


どこか不安そうにしながらも、紗良は小さく頷いた。その姿を見て、俺は改めて思う。


「この子、ただ大人しいだけじゃないんだな。」


少しずつ自信を持っていく紗良の姿が、今回の作戦の成功を予感させる……ような気がする。

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