コイマカセ 〜恋のカタチは千差万別〜

赤緑下坂青

第一章 : 平凡な日常、壊し方。

Part 1 : クラスの「高嶺の花?」

教室の窓際、光の加減で黒髪がほんのりと青く輝いて見える。藤原遥香は、いつものように本を読んでいた。黒板の前で喧騒を巻き起こしている男子グループも、机を寄せ合いながらおしゃべりに夢中な女子たちも、彼女には関係がない。まるで彼女だけが「このクラス」という場所に属していないかのように静かで、冷たい。


「高嶺の花って、こういう人のこと言うんだろうな。」


俺、佐藤優斗とは机に頬杖をつきながら、彼女を遠巻きに眺めていた。もちろん、ただの暇つぶしだ。遥香には一度も話しかけたことなんてないし、俺みたいな地味なやつが近づける相手じゃない。


「佐藤、お前また藤原さん見てんのか?」


不意に背後から声をかけられて、思わず姿勢を正した。親友の高橋翔だ。軽いノリでからかってくるこいつに、俺は「別に」と適当に返した。



「別にって顔じゃねぇけどな~。気になるなら話しかけりゃいいじゃん」


「だから気になってないって。そもそも、話すことなんて何もないし。」


「まぁ、あの藤原さんが佐藤に興味持つとも思えねぇけどな!」


翔はケラケラと笑いながら、俺の肩を叩いて席に戻っていった。そう、まさにその通り。俺と遥香は住む世界が違うんだ。だから……。


「佐藤優斗。」


突然、自分の名前が呼ばれた気がした。いや、確実に呼ばれた。教室の喧騒の中から、その声だけがクリアに届いたような気がして、俺はゆっくりと声の方向に目を向けた。


そこには、教科書を閉じて立ち上がる藤原遥香の姿があった。


「え?」


「あんた、放課後ちょっと残って。」

声のトーンに感情はほとんどない。目もまっすぐこちらを見ているけど、どこかこちらを見透かしているような視線だ。


「え、俺?」


「他に佐藤優斗っている?」

彼女は本心で疑問に思っているのか、ナチュラルに頭を傾げている。


その一言で教室の空気が一瞬静まり返った。そして次の瞬間、俺に向けられる周囲の視線と小声でのヒソヒソ話が一気に増えた。


「おい、マジかよ……佐藤が?」


「藤原さんが佐藤を呼び出すとか、何したん?」


いや、俺が聞きたいんだけど。


「……わかった。で、何の用?」


冷や汗をかきながら答えると、遥香は無表情のまま「放課後に説明する」とだけ言って席に戻った。その一言の意味深さに、俺の頭はしばらく真っ白だった。

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