ドS王子様の彼と爽やか天然子犬系男子に挟まれてます。
栞田青衣
1, 三軒茶屋でデート
「おまたせー」
朗らかな笑みを向けて、私の元に走り寄ってくる美青年、それは爽やか天然子犬系男子と巷ではささやかれる超御曹司。
「えっと、Tシャツよれよれだよ?」
「うん、そうだね」
やっぱりどこからどう見ても、子犬みたい。
身長が173センチあるため、見下ろされちゃう感じなんだけど、彼の優しい笑顔にほだされて、つい手を差し伸べたくなる。
「はい、行こっか」
笑顔で彼は私に手を差し出す。
「うん」
これが普通だと思ってるんだよなぁ。
Tシャツよれよれだけど。
「ねえ、ルリい、今日はどこに買い物するの~」
この努力しなくていい男子感がたまんないんだよなぁ。
だって、なにもしなくても甘えてくれるし、手を差し伸べてくれるし、言う事聞いてくれるんだもん。
「今日、帰ったら、甘えちゃう」
猫撫で声で彼が甘える。
「うん……」
その言葉で私はとろけそうになる。
「パンツ出そうだよ」
彼は、私のズボンのポッケをいじくる。
「ねえ///やめてよ///」
「ルリったら顔赤いよ」
んー、たまらん。
今までの恋愛関係を思い出すと、まるで監獄のようだ。
『お前が俺に釣り合うと思ってる?』
『あんたみたいなのが××と釣り合うと思ってるの?』
『もうちょっと努力したら?』
『偏差値いくつだっけー』
『やる気がないものは去れ!!!』
私の顔はげんなりする。
まあ、こんな感じ。
挙句の果てに信用していた彼を幼馴染に横取りされ、三角関係が玉砕。
もうダメだと思ったときに、このワンコ系彼が突如現れたのである。
「……ねえねえ、ルリぃクレープ食べようよー」
彼は金持ちのため財布のヒモが激ユルらしい。
「あ、待って待って」
私は彼の後を追いかける。
「お腹緩いんだから、そんなの食べちゃダメでしょ」
「いーんだよ、馬子にも衣装っていうじゃん」
「まっ、馬子……!」
よーするにそれって似合ってないってことだよね……。
「それってどういう……」
「はいあーん」
真上からクレープ投下。
「ねえ、ちゃんと口開けて……?」
「あっ、う、うん……」
クレープが口の中に着弾。
「ね、おいしいでしょ」
「う、うん……」
やっば、今の超絶可愛いんですけど!
うーん、おいしいことはおいしいんだけど、いまいち迫力がなぁ。
私は彼の手首を取り、こっちこっちと端に寄せる。
「ねえ、もうお金使っちゃダメ!」
「えっ」
お金使うとかトラブルの元、災害の元凶。
彼は舌なめずりをしながら、私を見る。
「ふーん、ルリがそういうなら、俺にも考えがあーる……」
ペロリとか彼は下を舐める。
「ねえ、じゃあ、俺とキスしちゃおっか……?」
「えっ」
私は口を塞ぐ。
「ルリ、初めてっ子そうだからなぁ、ねえ、ほら、そういうウブなところが」
一拍置いて、私の耳に顔を近づける。
「俺の好み」
子犬系彼は顔を遠ざけ目を細めると、口元をにやりと歪めた。
「はあ!? 俺がモデルに!?」
「そうそう」
彼は怪訝な顔をして、同居人に八つ当たりする。
「誰から聞いたんだよ、その情報」
きらびやかな衣装、豪華な家具、日本最上級の飲み物。すべてが揃った才色兼備な王子様——。
「いいんじゃないかと思って」
同居人はモデルのパンフレットを手に取っている。
「学歴も申し分ない、顔面偏差値高め、まるで、漫画から出てきたような言葉、ノリ……。爽やか女子は皆、大好きだよ?」
同居人は手によりをかけて、本日のディナーを用意する。
「ったく、くだらない」」
「またまたぁ、興味あるでしょ」
ドS王子様と巷でさんざん噂された彼は、頬杖をつく。
「どこから、そんな情報漏れたんだ」
「ま、裏切られきゃの話だけどね――」
彼の口から蛇のような笑いが漏れる。
「この間は、さんざんだったものな、王子様」
ピクリと彼は反応し、右手を挙げた。
「今すぐにタクシーを呼べ、さもないと地獄を見る」
「キリスト教か、地獄を見るぞ……」
彼の学歴をいたぶった後、同居人は蛇のような笑いを漏らしてタクシーを呼んだ。
「ルリ―こっちこっちー」
彼は手を挙げて、私を呼ぶ。
「ねえねえ、やっぱり今日うち帰らない?」
「えっ」
「だって心配だし」
「何が……」
「ちゃんとお風呂に入れるか心配♡」
彼はすごくどきどきしている。
「だってー、一人で凍えてないかとか、寂しい思いしてないか、とか」
私の髪を牛耳る。
「確認したいんだもん」
うん、まあ……そういうことなら。
結局、この人も寂しいんだ。
「じゃあ――」
彼は私の体を抱く。
「甘えさせてあげるよ」
「う、うん……」
なんだろ、この子。子供みたい――。
彼は心の中でそう思った。
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