第2話 俺が遊び人?
駅の出口付近は人で溢れかえっていた。
ここは自動改札ではなく、昔の駅みたいに係員がボックスに座っているタイプだからだ。
ボックスは二十くらいあるが、いかんせん利用者が多い。
行列がゆっくり進むのも仕方がないだろう。
だが、この混雑の理由はそれだけじゃない。
「帝都ダウシルに入るには乗車券のほかに
駅の改札というよりは空港の入国審査みたいだな。
ところで、俺は切符と旅券を持っているのか?
特急券と乗車券ならジャケットのポケットに入れておいたのだが……。
胸の内ポケットを探ると、ありがたいことに乗車券も旅券もそこにあった。
旅券にはこう書かれている。
名前 :サクラ・キンタ
年齢 :二四歳
ジョブ:遊び人
右の者がダウシル帝国民であることを証明する。
俺の名前は佐倉欣太で間違いない。
年齢も二十四歳だ。
そこまでは正しい。
だが、ジョブが遊び人ってなんだ?
俺は岡倉リゾート開発の社員であって、遊び人ではないぞ。
しかも俺は日本国民である。
ダウシル帝国民ではないのだ。
こんな嘘だらけの旅券を出して捕まったりしないだろうか?
「次!」
列は長いというのに、不安におびえていたらあっという間に自分の番になってしまった。
「入国の目的は?」
無表情な入国審査官が事務的に質問してくる。
目的?
出張で来たからなあ。
「仕事です……」
入国審査官は俺の目をじっと見つめた。
「ジョブが遊び人になっているけど、仕事はダンジョン?」
それはともかく、『ダウシルの穴』のプレイヤーは魔結晶と呼ばれるエネルギー物質を採取しながらダンジョンを冒険していくのだったな。
ちなみにダンジョンで魔結晶採取を仕事にしている人を探索者と呼ぶ。
ゲーム『ダウシルの穴』だと、プレイヤーはキャラクターごとに職業が決まっていた。
俺が選んだルマンドならジョブは聖騎士。
ハルミットなら勇者、レジーナなら最終的に賢者になる宿命を負ったキャラクターたちだ。
でも『ダウシルの穴』で遊び人をジョブにしているキャラなんていたかな?
いや、いなかったはずだ。
だとすれば、これは俺自身の物語か?
ぼんやり考えていたら、審査官がもう一度問い質してきた。
「ダンジョンで探索者になるのか、と聞いているんですが?」
「あ、そうです。はい……」
とりあえずそう答えておくのが無難だろう。
海外旅行で、目的は
緊張はしたが、入国審査は問題がなかったようで俺は無事に改札を抜けることができた。
いや、本当は不法入国で日本に強制送還された方がよかったのか?
いっそ暴れてみるのも手だったかもしれない。
だけど、ちゃんと帰してくれる保証はないもんなあ。
そもそも俺が持っているのは日本国のパスポートじゃない。
旅券だと俺は帝国民になっているのだ。
改札を出るとすぐに『東京』行きの電車を探したけど見つからなかった。
案内板だけでなく、駅員さんにも聞いたのだが、そんな駅は知らないと言われてしまったよ。
まあ、東京行きの電車……魔導鉄道があったところで金はないから切符は買えないか。
鞄などと同じで俺の財布は消えていたので無一文である。
いや、『ダウシルの穴』の通貨はレーメンだったはずだから、正確に言えば無一レーメンかな。
ていうか、本当にここはダウシルの穴の世界なのか?
俺は壁際に移動して一息ついた。
ここが本当にゲームの世界なら自分のステータスを見られるはずだ。
そう考えて心に念じるとステータス画面が開いた。
やっぱり見られるんだな……。
この画面には覚えがあるぞ。
まさに『ダウシルの穴』のプレイ画面じゃないか。
え……なんじゃこりゃっ!?
画面の最上部に書かれた文字列を見て、俺は大いに驚いた。
だって、そこにはこう記されていたから。
名前:サクラ・キンタ
ジョブ:遊び人(レベル99)
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