第6話
行きたくないと思いながらも、アリスたちの後に続いていると一つの教室の前で足が止まった。
どうやらここが集合場所の様だ。
「この教室が集合場所だよ、アレックス緊張してる?」
「いろんな意味でね…」
「まあ、最初にあいつらを見ればそんな反応になるのはわかるが…、他のやつらはあいつらに比べればまし…なはず…で、…あってほしい。」
レオが言葉に詰まりながらフォローを入れようとするがフォローできるような人たちではなかったのか、だんだんと歯切れが悪くなっていく。
レオの歯切れが悪くなっていくにつれて、他の全員もそれぞれが別の方向へと目をそらし始める。
アリスに至っては下手な口笛まで引き始める始末だ。
「おい、そこまで言ったんならましだって言いきれよ!あいつらよりやばい奴か、あいつらと同じレベルのやつしかいねえのか!?」
こんなに全員が目をそらすような人物ばかりなのだろうか。
だとしたらそんなところ本当に入りたくない。
今からでも別のところに所属するべきではないだろうか。
「落ち着け落ち着け、さすがに言葉一つで殺しに来るほどやばい奴はいない。ただ…そう、ちょっと個性的な奴がそろってるだけだ。」
「やばい奴ってのをオブラートに包んでいっただけじゃねえか!?おい、正直に俺の目を見ていってみろ!」
「だー、もうグダグダうるせえなあ、もうここまで来たんならさっさと中入れ!」
うっとおしそうにノエルが俺の背中を押し、教室に押し込む。
細身な見た目にしては意外な力強さに、思わずたたらを踏みながら教室へと入った。
押された勢いでこけそうになったのを踏みとどまりながら視線を上げると、教室の中には4人の男女が集まっていた。
全員の視線が新しく部屋に入ってきた俺へと集まるのを感じる。
その視線に若干の居心地悪さを感じながら、周囲を見渡してみると誰もが特徴的な見た目をしていた。
犬のような耳に長い髪、中世的な顔だちを持った侍、目つきが悪く頬に傷のある青年、白衣を着て何やら怪しげな薬を持っている女、ところどころ煤で汚れたり焦げたりしている鍛冶師。確かにどいつも個性的な見た目をしており一筋縄ではいかなそうな連中である。
そんな見るからに個性的な面々を若干ひきつった顔で見ていると、一番前にいた犬のような耳を持った侍が声を上げる。
「おー、彼がアリスの言っていた新しい仲間でござるか。拙者はリン、よろしくお願いするでござる。」
彼?が手を出してきたので反射的にその手を握ってしまう。
「ほうほう、これはなかなか…」
嫌な予感がして思わず手を引っ込める。
リンはそんな俺の様子を気にすることもなく、離された手を見ながら握ったり開いたりを繰り返すと、今度は俺の周りを移動しながら腕や足を観察し始める。
やっぱり変わったやつなんだろう。
困惑していると、唐突にリンの首根っこへと手が伸びてきた。
そのまま引きずられるようにして離れていく。
「あー、ちょっと何するんでござるか、シン。」
無理やり引っぺがされたリンは、自身を引っ張った頬に傷のある青年に非難の声を上げる。
「お前がいきなり新人に変なことをするからだ」
「まだ何もしてないでござるよ?」
「だから何かする前に止めたんだろうが」
シンはリンの襟をつかんだまま、やれやれともう片方の手で頭を押さえる。
まともなやつもいたんだ…とシンの言葉を聞いて少し安心する。
ここまで見てきた魔法学科の人物がかなり変人ばかりだったため、変人しかいないのかと思って不安だったがそんなこともないようだ。
シンとリンがぎゃあぎゃあともめている間に、残りの二人はどんな人なのだろうと視線を移すと、彼らはあきれたようにリンたちのやり取りを見ていた。
どうやらこのようなやり取りは日常茶飯事の様だ。
「あー、今日から来たアレックスです。よろしく」
俺はまだもめているリンたちをおいて二人に話しかける。
「おう、よろしくな。俺はスミス、初めからこんな状況で済まねえな。俺は普段、作業場のほうにこもってるからあんまり顔は出さねえが、何か武器や防具に困ったら相談してくれ」
「私はカグヤ、薬品関係の研究をしている。薬が欲しければ私のほうに相談してくれ。」
スミスもカグヤも見た目反して結構フランクなようだ。
黙って立っていた時は少し冷たそうな印象だったが、よろしくと笑いかけてくる顔は予想外にも優しげだった。
なんだ結構まともじゃないか。
俺は、レオ達の反応から魔法学科は変な人しかいないと思っていたが、どうやら結構まともな人もいるらしい。
よかったと胸をなでおろす。
今日この世界に来てから、やっと普通の学生に出会えた気がする。
そう思って安心していた矢先。
「おい、アレックスお前騙されてるぞ。」
ノエルがかわいそうなものを見るような目でこちらを見ている。
だまされているとはどういうことだろう。
「あら、だましてはいないわよ。相談に来たらちゃんと薬あげるわよ。」
カグヤが心外だといった様子でノエル言葉を否定する。
その隣ではスミスが同感だと首を縦に振っていた。
「それただでじゃねえだろうが!?相談に行ったら相談料とか言って変な薬の飲ませたじゃねえか!?よくそんなにまるで心当たりがありませんみたいな顔ができるな!?」
なにそれ!?話が違うんですけど!?
「あら、いいじゃない?あなたも薬がもらえて助かる、私も薬の実験台ができて助かる。ウィンウィンの関係というやつね。」
「全然よくねえよ!?前なんて三日間変なバケモンになって戻らなかったじゃねえか!俺、腹痛の薬もらいに行っただけだぞ!?」
「はあ、細かいこと気にするのね。どうせ死なないのだからいいじゃない少しくらい。」
まるで子供のわがままを聞いているかのように、やれやれとカグヤが首を振る。
どう聞いてもこいつが悪いのに、こんな態度をとれていることに底知れない恐怖を覚えた。
「お前もだぞスミス、まるで関係ありませんみたいな態度をとってるが、前実験台にしたやつは爆散しただろ。」
ノエルの横で様子を見守っていたレーナが口をはさむ。
え、こいつもそんなことしてんの?
「いや、あれは火薬の量を間違えただけだって。今度はうまくいくはずだから、理論上は大丈夫なはずだから」
スミスが言い訳を並べている。
こいつらはそろいもそろって俺のことを実験台にしようとしていたらしい。
あんなにやさし気な笑みを浮かべておきながら?
やっぱこの学科、やばい奴しかいねえじゃねえか、ちくしょう。
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