第10話

「あー、あれだ。そっか、あの時」


 泣き笑いをした理央が、何かを考えているように、座り込んで空を見上げている。


「荷物用意する前だったわ。これ忘れたんじゃなくて買いに行けてなかったってやつだ」


 あははと自虐めいて笑った理央が、小さくため息をつく。


「俺だよな? 奏に『星空のためのクラシック』勧めたの」


 そうだよ、理央だよ。

 思い出し始めている理央の口調にギュッと目を閉じたら、涙が頬を伝い、耳まで流れ込んでくる。


 八月十日正午、数日前から降っていた雨が上がり、よく晴れた日のことだった。

 その日の昼前、理央からメッセージが入っていた。


『これから、雨具とシート買いにホームセンター行ってくる! あと、昨日な、【星空のためのクラシック】ってのをダウンロードした。試聴できるから、奏も聞いてみ? なんか、オマエが好きそうなのいっぱい入ってた。あ、虫除けも買っとく。んじゃ、準備万端で行くから』


 理央って人は、一見したら理数系男子みたいなナリをしてるくせに、時々ウザイくらいに体育会系で、困った人を放っておけない。

 そういう人だから仕方ないのはわかってるの。

 あの日に戻ったところで、理央はきっと同じことをする。

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