第9話

「奏?」


 涙声に気づかれたのだろうか、肘で上半身を起こした理央が私を覗き込む。


「なんで、泣いてる?」


 理央の指先が私の涙を拭こうとして、空振りに終わる。


「あれ? なんで?」


 今起きていることを認められないだろう理央が、焦ったように何度も何度も私の頬に触れようとして、幾度目かでその動きを止めた。


「……、参ったな、なんだよ、コレ」


 驚いたように理央は自分の両手を、体をまじまじと眺めている。

 少しずつ、少しずつ闇の中に飲まれていくように、体が透けていることに、理央自身はようやく気付き呆然としていた。

 私はというと、今日ここに理央が来た時点で、これは夢か幻か、それともいよいよなのか、と覚悟を決めていたのだけれど……。

 本当は、まだ何一つ覚悟なんか決めきれてなかった。

 見上げた空に、流れた星にまた願う。


――神様、理央を連れて行かないで。理央と一緒にいたい、まだまだずっと。三年先も、五年先も、ずっとずっと……。

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