第5話

「お菓子もジュースもお茶もあるよ? 虫除け、ここに置いておくから使って? 双眼鏡は交代ね?」

「なんでも屋か、オマエは」


 やっと笑顔が戻ってきた理央に、ホッとした。

 その横で私はゴロンと横になって、スマホに手を伸ばすと『星空のためのクラシック』というピアノ音楽アルバムを邪魔にならないような音量で流す。

 

「あ、俺もダウンロードしたんだよ、それ」

「いい曲ばかりだよね」


 誰が勧めてくれたのかも覚えてないのか、理央の反応に苦笑する。


「ペルセウスって勇者でメドゥーサ倒してアンドロメダ姫と結婚したんだよな? ヘラクレスのじいちゃんにあたる人」

「大分端折ってるけど、大体その通り。でも、なんで? 勉強してきた?」

「最近、ネットで調べたんだよ。星にまつわる神話。そういえば、ふたご座もそうだっけ? 勇者多くない? 僧侶とか魔法使いおらんの?」

「星空パーティ!? ゲームか!」


 理央のボケにツッコミを入れるのは、いつだって私の仕事だ。

 いつも通りの私たちの空気に、へへっと笑いながら理央も寝転び空を仰ぐ。

 ふと、この世界に今二人だけしかいない、そんな錯覚に陥りそうになる。

 スマホからは、優しいピアノ協奏曲が流れる。

 夜空には無限に広がる星の輝き、時折大きな流星がヒュンと流れていく。

 瞬きをするのも勿体ない、この壮大な夜が二人だけのためにあるような、そんな気がした。

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