第3話

七夕の日もそうだったよね。

 お互いの家の窓から、天の川を観測した日。電話で話しながら、織姫と彦星のことを切なく語った私に。


『ベガとアルタイルね、天の川は銀河系。織姫と彦星は伝説だし』


 同じ星を眺めながら、まるで違うものを見ているみたいで何だか悲しくなる。

 理系男子代表みたいな眼鏡をかけて、理屈を語る理央の顔が目に浮かんだ。

 なにやら銀河系とブラックホールが好物らしく、星一つ一つの形だけじゃなく、成分なんかに興味があるらしい。

 そりゃあ私だって神話やおとぎ話は、理解してるけど。無限に広がる宇宙に幻想浪漫を夢見たっていいでしょ、と胸の内で文句を垂れて唇を尖らせる。

 しばらくの沈黙に耐え兼ねたのは理央の方だった。


『悪い、怒らせるつもりじゃなくて』

「ん……」

『あのな?』

「うん?」

『俺が星を好きになった理由とは違うけれど、かなでがどんなきっかけであれ、星好きだったのは嬉しい。こうやって、話しながら同じもの見れるし。奏がいてくれて、良かったって思う』

「え、っと」


 受話器にあてた耳が火照っている。

 いつもと同じ天体観測実況電話なのに、心臓が平常時の倍の倍ぐらい大きく鳴っている気がする。

 理央の声を一言も聞き漏らさないように、耳をすます。


『今年のペルセウス座流星群、二人で一緒に観ないか? その、最後だし』


 高校生最後の夏、今までは別々の場所で見てきた流星群。

 しかも昨年もその前も曇り空でほとんど観測できなかったペルセウス座流星群。

 二人で、の意味を探りながら、胸の奥から湧き出てくる甘い予感に口元が緩みだす。


「いいよ。私も、理央と観たい。一緒に星を観れる人がすぐ側にいてくれて良かった」

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