第17話 全国大会決勝
全国大会の100メートル決勝。雅にとって、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。地方予選での勝利、全国大会予選での自己ベスト更新。すべてはこの瞬間のために積み重ねてきたものだ。
スタンドからの応援の視線を感じながら、雅は静かにスタートラインに立った。
スタート前の緊張
スタートラインに並んだ選手たちは、皆一様に集中した表情を見せていた。雅の隣には地方予選で圧倒的な力を見せた強豪選手が立っている。筋肉の動きや表情からも、その実力の高さが伝わってきた。
「自分に集中するだけ。私は私の走りをする。」
雅は深呼吸をし、心を落ち着ける。審判が旗を持ち上げ、選手たちの視線が一斉に集まる。
スタートの瞬間
旗が振られると同時に、雅は地面を全力で蹴り出した。スタートダッシュはこれまで以上に速く、周りの選手たちを一歩リードする形で前に出る。
風が雅の顔を叩き、スタンドの応援は音としては届かないが、熱量が伝わってくる。全身のリズムを整えながら、雅は中盤の加速に集中した。
中盤の攻防
50メートル地点を通過したとき、隣のレーンの強豪選手が雅に並びかける。迫りくるプレッシャーを感じながらも、雅はフォームを崩さずに走り続けた。
「負けない……!」
練習で高橋から教わった中盤の加速力を信じ、体全体で地面を押し出す感覚を意識する。彼女の中には、これまでの努力が支えてくれるという確信があった。
ラストスパート
ゴールまで残り20メートル。雅は全力を出し切るために最後の力を振り絞った。隣の選手もさらに加速し、まさに一瞬の勝負となる。
「ここで決める!」
腕を振り、足を大きく踏み込みながら、雅はゴールラインを目指す。視界の端で隣の選手の動きが見えるが、それ以上に自分の走りに集中した。
そして――
ゴールの瞬間
雅がゴールラインを駆け抜けたとき、全身に達成感が広がった。周りの選手たちも次々とゴールし、審判たちが結果を確認している。雅は息を切らしながらタイムボードを見上げた。
「11秒9」
雅は驚いた。自己ベストをさらに更新し、ついに12秒の壁を突破したのだ。
次に視線をタイム順位に向けると、雅の名前が1位に表示されていた。
勝利の歓喜
観客席から大きな拍手が沸き起こり、応援席では家族や仲間たちが喜びを爆発させていた。翔が掲げた応援旗が、雅の視界に入る。
佐藤と高橋が駆け寄り、手話で伝えた。
「やったな、雅!全国大会優勝だ!」
「信じていたよ。君は本当にすごい。」
雅は涙がこぼれそうになるのをこらえながら、手話で答えた。
「ありがとうございます。皆さんのおかげです。」
ライバルとの交流
ゴール後、隣のレーンで競い合った選手が雅に近づいてきた。
「おめでとう、雅さん。最後まで自分の走りを貫いていて、すごく感動しました。」
その言葉に雅は少し照れながらも、手話で返した。
「あなたの走りも本当に素晴らしかったです。またどこかで競い合いましょう。」
二人は笑顔で握手を交わした。
新たな目標
家に帰った雅は、全国大会での優勝を報告し、家族と共に喜びを分かち合った。その夜、彼女はノートを開き、こう書き記した。
「次は世界へ――デフリンピックの舞台へ。」
音のない世界でも、雅の走りは確かに誰かに届いている。全国大会での勝利を糧に、雅の挑戦はさらに大きな夢へと向かって進んでいくのだった。
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