第15話 全国大会への準備

地方予選での勝利から数日が経った。雅は、次なる舞台である全国大会への準備を始めていた。デフリンピックへの道を切り開くためには、全国大会で好成績を残すことが絶対条件だ。その重圧を感じながらも、雅は新しい課題に向き合おうとしていた。


高橋の提案


練習場でのある日、高橋が雅に話しかけた。


「全国大会では、地方予選以上に強い選手たちが集まる。君の走りは素晴らしいけど、さらに上を目指す必要がある。」


雅は真剣な表情で頷いた。


「どうすればもっと速くなれますか?」


高橋は少し考え込んだ後、手話で答えた。


「これからはスタートダッシュだけでなく、中盤の加速力とラストスパートの集中力を鍛えよう。全国大会では、後半での勝負が鍵になる。」


高橋の言葉に雅は決意を新たにし、練習に取り組み始めた。


新しい練習メニュー


高橋は雅に特別なトレーニングメニューを用意した。それは、100メートルを分割してそれぞれの区間で最高速度を出す練習だった。


「最初の30メートルはスタートダッシュに集中。その後の50メートルでスピードを維持し、ラスト20メートルで最大限の力を出す。それを繰り返して、体に理想的な走りを覚え込ませるんだ。」


雅はそのアドバイスに従い、繰り返し練習を行った。腕を大きく振り、足を地面にしっかり叩きつけるように走る。風を切る感覚は心地よかったが、全身を使うトレーニングは想像以上に体力を消耗した。


「もっと……速く……!」


雅は疲労に負けず、何度も繰り返しトラックを駆け抜けた。


部活の仲間たちの応援


練習が終わると、部活の仲間たちが雅の元に集まってきた。


「雅、本当に全国大会に出るんだな。すごいよ!」


悠馬が笑顔で手話を使いながら励ます。他の部員たちも次々と応援の言葉を伝えてくれた。


「全国大会でも、雅なら絶対に通用するよ。」

「私たちも全力で応援してるから!」


仲間たちの応援を受け取った雅は、自然と笑顔になった。


「ありがとう。みんなの応援が本当に力になる。」


家族のサポート


家でも、家族が雅を全力で支えていた。母親は栄養を考えた食事を作り、弟の翔は手作りの応援旗を用意していた。


「これ、大会で見えるところに飾ってね!」


翔が渡してくれた旗には、雅の名前と「がんばれ!」という文字が大きく書かれていた。雅はそれを見て心が温かくなり、手話で伝えた。


「ありがとう、翔。絶対に全力で走るね。」


不安との向き合い


夜、雅は一人で自分のノートを開いた。全国大会への期待と同時に、強い不安も感じていた。


「本当に私に勝てるのだろうか……。」


しかし、ノートに書き留めたこれまでの努力の記録や、家族や仲間からのメッセージを見返すうちに、雅の心は次第に落ち着いていった。


「私はひとりじゃない。みんながいる。そして、自分の力を信じる。」


そう自分に言い聞かせると、自然と決意が強くなった。


新たな決意


翌日の練習で、雅はこれまで以上に力強い走りを見せた。高橋も佐藤もその成長に目を細めながら手話で伝える。


「これなら全国大会でも必ず戦える。」


雅は頷きながら、力強く言った。


「全国大会でも、自分の全力を出します。そして、その先に進みます。」


未来への道


全国大会まであと数週間。雅はこれまで以上に厳しいトレーニングに取り組みながら、次なる挑戦に向けて準備を進めていた。


ノートに新たに書き加えられた言葉は、彼女の心の中で燃える炎を象徴していた。


「全国を越え、その先の世界へ。」


音のない世界でも、雅の走りは確かに誰かに届いている。そして、全国大会という大舞台が、雅にとって次なる挑戦の始まりになるのだった。

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