第14話 地方予選決勝

午後の太陽が競技場を照らす中、雅は決勝のスタートラインに立っていた。周囲には、予選を突破した精鋭たちが並ぶ。全員が全国大会への切符をかけて、真剣な表情を浮かべている。雅の胸には予選を1位で通過した自信と、それでも拭いきれない緊張感が入り混じっていた。


スタートラインでの静寂


審判が選手たちにスタート位置につくよう指示を出す。雅は視線を前に固定し、ゆっくりと深呼吸をした。高橋の言葉が脳裏をよぎる。


「焦らず、自分のペースを守れ。最初の30メートルをしっかり走れば、君の走りができる。」


雅はそのアドバイスを胸に刻み、旗の動きに集中する。


スタートの瞬間


旗が振られる。雅は地面を蹴り、全力で飛び出した。これまで練習で培ったスタートダッシュは完璧だった。隣の選手たちを一歩リードする形で、雅はスピードに乗る。


風が雅の顔を打ち、ゴールラインが徐々に近づいてくる。全身をリズムよく動かしながら、雅は中盤のペースをしっかり維持する。


中盤のプレッシャー


50メートル地点に差し掛かったとき、隣のレーンの選手が雅に迫ってきた。彼女の体格は雅よりも大きく、力強い走りでぐんぐん加速してくる。


「負けない……!」


雅は自分にそう言い聞かせながら、フォームを崩さずに走り続けた。無駄な力を使わず、全身を効率的に動かすことだけを意識する。


ゴールスプリント


ラスト20メートル。ゴールラインが目前に迫る中、雅は最後の力を振り絞った。隣の選手との距離はほとんどなく、まさに接戦となっている。


「ここで勝つ……!」


雅は腕を大きく振り、足をさらに強く地面に叩きつけるように走る。そして――


勝利の瞬間


雅はゴールラインを駆け抜けた。その瞬間、審判の視線が雅の方に向き、雅が1位でゴールしたことを確信した。


息を切らしながら振り返ると、隣の選手もゴールに到達していた。タイムボードを見上げると、そこには雅の記録が表示されていた。


「12秒1」


自己ベストを再び更新し、見事に1位を勝ち取った雅は、思わず拳を握り締めた。


仲間とコーチの祝福


佐藤と高橋が雅のもとに駆け寄る。


「やったな、雅!全国大会への切符を掴んだぞ!」

佐藤が手話で伝え、高橋も大きく頷いた。


「素晴らしい走りだった。これまでの努力が結果になったな。でも、全国大会ではもっと強い選手が待っている。引き続き頑張ろう。」


雅は二人の言葉に感謝しながら、大きく頷いた。


隣の選手との交流


隣のレーンで競い合った選手が雅に近づいてきた。彼女は短い髪を揺らしながら手話で話しかける。


「おめでとう、雅さん。あなたの走り、すごく綺麗だった。」


彼女の名前は里奈。音のない世界で競技に挑む同志として、雅とすぐに打ち解けた。


「里奈さんもすごかったです。ゴール直前で抜かれるかと思いました。」


二人は笑い合いながら、次に全国大会で再び会うことを約束した。


家族への報告


家に帰った雅は、真っ先に母親に結果を伝えた。手話で「1位になったよ」と伝えると、母親は涙を浮かべながら雅を抱きしめた。


「雅、本当におめでとう。あなたの努力は間違いなかったのね。」


弟の翔も飛び跳ねながら「全国大会、絶対勝てるよ!」と手書きの応援メッセージを見せてくれた。


新たな挑戦へ


その夜、雅はノートにこう書き加えた。


「次は全国大会。そして、その先へ。」


音のない世界でも、雅の走りは確実に未来への道を切り開いていた。次なる目標に向けて、彼女の挑戦はさらに加速していくのだった。

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