第13話 地方予選
いよいよ地方予選当日がやってきた。雅はこれまでの練習の日々を思い返しながら、スタートラインに立つ準備を進めていた。この大会で好成績を収めれば、全国大会への切符を手にすることができる。それは雅にとって、デフリンピックという夢に一歩近づく重要な舞台だった。
会場の熱気
競技場には、予選に出場する選手たちが集まり、それぞれウォーミングアップをしていた。雅も軽くストレッチをしながら、自分の体の調子を確認する。佐藤と高橋がそばにいて、手話でアドバイスを送ってくれる。
「雅、ここまでの努力を信じて。君は必ずやれる。」
佐藤が優しい笑顔で励まし、高橋も手話で力強く伝える。
「楽しむことを忘れずに。リラックスして走れ。」
雅は二人の言葉に大きく頷き、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
予選スタート
雅が出場する100メートル走の予選が始まる。スタートラインに立つと、心臓の鼓動が速くなるのを感じたが、同時に胸の中で静かな決意が湧き上がってきた。
「私は、私のために走る。そして、家族や仲間のためにも。」
審判が旗を持ち上げる。雅は視線を集中させ、その動きを見逃さないようにした。そして旗が振られた瞬間、雅は全力で地面を蹴り出した。
全力の走り
スタートダッシュは完璧だった。これまでの練習と高橋のアドバイスを思い出しながら、雅は体全体を使ってリズムよく走る。腕の振り、足の蹴り出し、呼吸――全てが調和しているように感じた。
風が雅の髪をなびかせ、観客の声は聞こえないが、その視線を感じることができた。隣のレーンの選手と並走する中で、雅はさらに加速する。
ゴールの瞬間
ゴールラインを越えると、雅は息を切らしながら立ち止まった。隣の選手たちもゴールし、それぞれの結果を確認し合っている。雅はすぐにタイムボードに目を向けた。
「12秒2」
自己ベストを更新し、予選1位で通過したことを確認した雅は、思わず拳を握り締めた。
仲間とコーチの祝福
ゴール後、佐藤と高橋が駆け寄ってきた。
「やったな、雅!素晴らしい走りだった!」
佐藤が手話でそう伝え、高橋も満足そうに笑っていた。
「君の努力が結果になったね。でも、これはまだ始まりだよ。」
高橋の言葉に、雅は頷きながら答えた。
「はい。この調子で全国大会でも頑張ります。」
応援席では悠馬や部活の仲間たちが、手を振りながら雅を称えていた。彼らの応援も、雅の背中を押してくれる大きな力となっていた。
決勝のプレッシャー
予選を通過した雅は、その日の午後に行われる決勝レースに向けて準備を始めた。予選の走りで自信を掴んだものの、決勝はさらに強い選手たちと戦わなければならない。
「決勝では、もっと冷静に。そして、自分のペースを守ることを意識して。」
高橋が手話でアドバイスを送る。
雅は深呼吸をして、決勝のスタートラインに立つ自分をイメージした。
新たな挑戦へ
決勝戦の開始が近づく中、雅は家族や仲間の応援を胸に刻みながら、再び走る準備を整えた。音のない世界でも、彼女の決意と努力は確実に誰かに届いている。
「私は走る。どこまでも。」
雅の挑戦は、さらに熱を帯び、次なるステージへと向かっていくのだった。
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