第8話 チームメイトとの出会い

デフリンピックという新たな夢を胸に、雅は練習に励み続けていた。地方予選まであと2か月。佐藤の指導の下でスタートからフィニッシュまでの流れを繰り返し練習し、少しずつタイムを縮めていた。


そんなある日、佐藤が雅に話しかけた。


「雅、今度の土曜日に特別な練習会がある。デフリンピックを目指している選手たちが集まる場だ。君も参加してみないか?」


「デフリンピックを目指す人たち?」


雅は驚きつつも、興味を持った。自分と同じように音が聞こえない中で競技に挑戦する人たちに会える。それは雅にとって初めての経験だった。


特別な練習会


土曜日、雅は佐藤とともに練習会場である広い陸上競技場に向かった。そこには全国から集まった選手たちがいた。彼らの多くも聴覚障害を抱えながら、それぞれの種目で夢を追いかけている。


雅が緊張しながら辺りを見渡していると、一人の女性選手が近づいてきた。


「君が佐藤先生の教え子?私、田中美咲。400メートル走をやってるの。」


美咲は手話を交えながら自己紹介をすると、雅に笑顔を見せた。


「初めて?大丈夫、みんなすぐに仲良くなるから。」


雅は少し緊張しながらも、美咲の明るい態度に心がほぐれていくのを感じた。


交流と学び


練習会では、雅は他の選手たちと一緒にウォーミングアップやトレーニングに取り組んだ。短距離、長距離、フィールド競技――それぞれの種目で自分の限界に挑む選手たちの姿は、雅にとって刺激的だった。


特に、美咲からは多くのアドバイスを受けた。


「雅、君のフォームは綺麗だけど、もう少し体全体を使った方がいいよ。腕をもっと大きく振ると、スピードが出やすくなる。」


美咲の指導に従って雅が走ると、すぐに違いがわかった。軽やかに足が前へ進む感覚があり、雅は驚きと嬉しさで顔を輝かせた。


「ありがとう、美咲さん!すごく走りやすいです。」


「その調子。その努力が、いつか君をデフリンピックに連れていくよ。」


美咲の言葉は、雅にとって大きな励みとなった。


言葉を超えたつながり


練習会の最後には、参加者全員でリレーの模擬レースが行われた。雅はバトンを受け取る役割を任され、チームメイトと力を合わせて走った。


ゴールした瞬間、音のない中でもチーム全員が笑顔を交わし、手話や身振りで互いを称え合った。その瞬間、雅は気づいた。


「音が聞こえなくても、こんなにも心が通じ合うんだ。」


それは、これまで一人で練習してきた雅にとって、新しい感覚だった。


新しい仲間


練習会が終わった後、美咲や他の選手たちは雅に声をかけた。


「これからもお互い頑張ろうね。大会でまた会えるのを楽しみにしてる。」


雅は笑顔で手話を返した。


「はい!また会いましょう!」


初めて出会った仲間たちとのつながりは、雅の心に大きな力を与えた。彼らとともに夢を追いかける未来が、少しずつ現実味を帯びてくるのを感じた。


新たな決意


家に帰った雅は、自分のノートを開き、そこに一言だけ書き加えた。


「仲間と共に、夢の舞台へ。」


音のない世界でも、雅の周りには確かに人とのつながりが生まれていた。それは彼女をさらに前へと押し出す、大きな力となっていくのだった。

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