ハイスペックな彼氏③

 お風呂から出た俺を見た先生が、人差し指をクイクイっとさせて『こっちに来い』というジェスチャーをしている。

 それに素直に従い、ソファー座っている成宮先生の前に膝を抱えて座り込んだ。床には、きちんとクッションまで置かれている。俺が座るのを待ち構えていたかのように、ドライヤーの温かい風が当てられた。

「ったくお前は、いつも髪ビチャビチャのまま寝ちまうから」

「あ、すみません……先生」

「てかさ、お前。プライベートで先生はやめろって言ってるだろうが」

「あ、す、すみません」

「それに謝り過ぎだし」

 文句ばかりいう割には優しい手つきで髪を撫でてくれる。ドライヤーの温かい風と、成宮先生の大きな手が心地よくて……つい居眠りをしそうになってしまった。

「千歳さんの手……大きくて、優しくて気持ちいい……」

 自分の髪を優しく掻き上げていた手をそっと掴み、無意識に頬擦りをした。

「俺は……この手が大好きです……」

 それからそっと唇を寄せる。夢心地ですごく気持ちいい。体と心がふわふわして、蕩けてしまいそうだ。



「葵、可愛い」

「んッ……」

 ドライヤーの風が止んだ瞬間、少しだけ強引に上を向かされて、成宮先生の唇と自分の唇が重なった。

「ふぁ……んッ……」

 苦しいくらいに唇を奪われて、俺は必死に息を整えようと口を開いた。そんな無防備な俺の口内に、成宮先生の熱い舌が侵入してくる。温かな舌を夢中で受け入れながら、成宮先生の体にしがみついた。

「葵……もうトロトロじゃん? そんなに俺のキス好き?」

「うん……好き……千歳さんのキス、大好き……」

「ふふっ。エッロ。可愛いなぁ」

 俺が唯一、成宮先生に誉められる事と言ったら、『エロい』と『可愛い』だけ。しかも、こうやってイチャイチャしている時限定だ。

 だから、正直戸惑いは隠せないし、不安にもなる。

 俺は、こんな事をするためだけに成宮先生の傍にいるんだろうか……って。



「ならさ、葵。もっとキスしてって、おねだりしてごらん?」

「へ?」

「言ってごらんよ、このエロい唇で」

「いや……恥ずかしい」

「こら、逃げんなよ」

 成宮先生から顔を背けようとすれば、逆に逞しいその腕に捕まってしまった。

「言わなきゃ、これでもうお終い」

 そう意地の悪い声で囁かれながら、洋服の上から胸の突起をなぞられる。その焦らされるような甘い刺激に、体がピクンと反応した。

「ほら、おねだりは?」

「んあっ! やぁ……」

 キュッと突起を摘まれて、指先で弄ばれてしまえば、下腹部の辺りがジンジンと疼き出す。体が少しずつ熱を帯びて、全身が、成宮先生を求めだしてしまった。

 こうなってしまえば、悔しいことに俺に勝ち目なんてない。白旗を振りながら、「あたなが欲しい」と求める以外に方法なんてないのだ。



「もっと……もっと、キス……千歳さん……」

「ん?」

「お願い……もっともっと虐めて?」

「大変良くできました」

 満足そうに微笑む成宮先生に、再び口付けられる。舌を絡ませて、唇を吸われて。敏感な口内を遠慮なく犯されていった。

「あ、あん……ふぁ……んッ……」

 口の端からはだらしなく涎が流れ、呼吸さえままならない。逃げても執拗に唇を追いかけられて捕まってしまう。

 二人の唇の重なる音が、やけに鼓膜に響いて……どんどん体が熱く火照っていくのを感じた。



「ここもこんなに熱くなって……」

「ヤダ、そこは……止めて……」

「こんなにガチガチにして、葵はエロいなぁ……」

 下着に手を差し込まれ、俺自身を直接撫でられる。細くて長い成宮先生の指が、自分自身に絡み付いてくるその感覚に、俺は無意識にブルブルっと身震いをする。

「もう先端なんてトロトロだ」

「嫌……そんな事、言わないで……」

 必死に「嫌々」をするように首を振ってみても、自分にだってわかっていた。自分自身が更なる甘い刺激を求めていることを。

 先生が少し手を上下に動かすだけで、俺の先端から溢れ出した甘い蜜のせいで、卑猥な水音が聞こえてくる。

 先端をカリッと引っ掻かれると、「あっ、ん……」と、自分のものとは思えないほどの甘い声が口をついた。

 とうに下着など脱がされ、女の子みたいに股を開かされながら自身を扱かれ続ければ、どんどん体が熱く昂っていった。

「あん、あ、はぁ……気持ちぃ……あっ!」

「気持ちいいか?」

 甘い声は絶え間なく口から溢れ出し、成宮先生の指に翻弄されてしまう。俺自身を扱く手が速くなればなるほど、思わず耳を塞ぎたくなるような卑猥な水音が響き渡った。



「ヤダ、恥ずかしい……」

 恥ずかしくて仕方ないのに。

 でも、でも……気持ちいい。

「あ、出る……千歳さん……あん、あ……イク……イキそう……」 

「いいよ、出しな」

「あっ、イク……イク……あ、あ!」

「葵、メチャクチャ可愛い……葵、葵……」

「あ、んぁ……! むぅ……キス苦し……ん、あん……」

 津波のような快感に全てを飲み込まれそうになりながらも、成宮先生からのキスを無我夢中で頬張る。

 頭の芯がボーッととしてきて、意識が遠退いていくのを感じた。

 何が何だかわからないのに、ただ気持ち良くて……。涙がボロボロと頬を伝う。それを成宮先生が唇で掬ってくれた。

「イク……イク……あぁぁ!」

 心臓が破れてしまうのではないかというほど拍動を打ち、ビクンと体が大きく跳ね上がる。

「うッ、あッ!」

 短い悲鳴を上げながら、俺は成宮先生の中に熱い精を放った。



 はぁはぁ……と荒い息を何とか整えようとしても、強い睡魔に追われて、どう頑張っても瞼が下がってきてしまう。

 冷めやらない絶頂感から、現実に戻ってくることができなかった。

「葵、可愛かったよ」

 頬を伝う涙が、成宮先生の唇に吸い込まれていく。

「千歳……さん……」

「おやすみ、葵」

 成宮先生の笑顔を見て、「なんだ……そんな優しい顔もできるんじゃないか」と少しだけ驚いてしまう。

 だって、いつも成宮先生は厳しくて、叱られてばかり。本当に意地悪で、優しくなんてない。そう、なぜか俺にだけ意地悪なんだ。

 でも、俺だって、先生に優しくされたいし褒められてみたいって思わない訳じゃない。

 俺だって、俺だって……。



「千歳さんの意地悪……」

 ふわりと身体が宙に浮かぶ感覚を覚えながら、俺は意識を手放した。



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