深海に沈むニカ

@tannpoponohanataba

プロローグ

 貴方には大切な人がいますか?


 目を閉じれば、思い浮かぶ人の顔があるでしょうか?


 それは家族でしょうか。友人でしょうか。それとも、恋人でしょうか。


 その人を失うことを想像したことがありますか?


 質問を変えます。


 貴方には好きなモノがありますか?


 それがあるだけで胸が高鳴るような、貴方の心を満たしてくれるモノ。


 それを手放さなければならなくなったら、貴方はどうしますか?


 思い出してください。


 その人、そのモノが貴方の手から滑り落ち、届かない場所へと消えていく様子を。


 心に穴が空いたような感覚に耐えられますか?


 その空虚を、どうやって埋めればいいのか分からなくなったとき、貴方はどうしますか?


 ただ静かに消えるなら、それでも幸せなのかもしれません。


 しかし、それが形を変えて、別の姿で現れるとしたら……?


 そう、それはいつか貴方の前に戻ってくるかもしれません。


 だけど、その時、アレは、それは本当に貴方の知っているものでしょうか?


 それとも、何か別のものになり果てているのでしょうか?


 そんなこと、考えたことはありませんか?


 この水族館には、そんな話があります。


 ここでは時々、誰かの知っているモノが、誰かの知っている人が、姿を変えて現れると言われています。


 それが『本物』なのか、『何か別のもの』なのか……。


 答えを知るのは、その人自身だけです。


 貴方には、心当たりがありますか?


 受け入れることができますか?


 今でも、愛してますか?


 ようこそ、深海に沈む水族館に。

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2024年11月30日 07:00

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